佐吉奮闘編

元亀三年 六月三日 晴れ 佐吉

梅雨も明けたみたいで、急に暑くなった。
その暑くなった中で、森の中でみんなで訓練。
それも紀ノ介や虎之助、市松みたいな同輩に、
どこからつれてきたかわかんないような人夫さんが一緒になって、
ひたすら逃げる訓練ばかりした。
隊列を組んで逃げたり、ばらばらに逃げたり、クワやスキを持ったまま逃げたり、
ほうり捨てて逃げたり・・・

汗みどろになってもういやと思っていたら、虎之助もがまんできなかったみたいで、
訓練の指揮をしていただんごばなの権兵衛さんにつっかかっていた。
「権兵衛さん、こんな逃げるばっかの訓練、かんべんしてちょーよ。
 だいたい俺だったら、敵に後ろを見せることなんてぜったいせんで」
権兵衛さんはにこにこしながら聞いていたと思ったら虎之助の顔をいきなり平手でひっぱたき、
やっぱりにこにこ笑って
「たーけもん。かなわん相手には逃げるしかないわい。
 わしみたいに強くなっても、まずけりゃ真っ先に逃げんと生き残れんかったでよー
 死にたくなければまじめにやりゃーせ!」
と大声で言った。さぼりかけていた周りの人夫がその光景を見て震え上がって、
また熱心に逃げる訓練をやりだしていた。もちろん僕も。
ただ、なんかその後権兵衛さんが虎之助に視線をなげかけると虎之助がにこっとしたような
気がしたけど、仕組んだのかなあ。どうなのかなあ。

元亀三年 六月某日 佐吉

たけなかさんも昔はおんなのようだといじめられたらしい
でも頭のよさでみかえしてやったって。
病弱なのは治ってないみたいだけど
ぼくも体に気をつけて勉強します。
田中さんに韮粥をつくってもらう

元亀三年 七月七日 佐吉

七夕祭りだ。短冊におねがいごとを書く
紀之介の病気が治っていつまでもおともだちでいられますように

元亀三年 七月十一日 佐吉

七夕飾りをかたずける
紀之介の短冊に「佐吉といつまでもともだちでいられますように」
とかいてあるのを見つける。うれしかった。
紀之介は僕の大事な友達だ。一生大事にしたいと思った

元亀三年 七月十二日 佐吉

片付けた七夕の短冊を奥方様が名前別にわけていた。
ぼくのは一つ。紀之介のは三つあった・・・
虎之助や市松たちと 一緒に書いた大きい短冊があった・・・
「天下をとる漢になろう」・・・と。


紀之介は知勇兼備なんだと思った・・・。

元亀三年 七月十六日 晴れ 佐吉

急に永原城を守る佐久間さまと佐和山城を守る丹羽さまが多くの軍を引き連れてやってきた。
佐久間右衛門さまは見かけは上品なおじさまという感じだがすごく気さくなお方で、
「藤吉郎、こんなあぶにゃーところで骨折りだのう。茶を飲むひまもにゃーだろ
 とのも酷なことをさせるわい」
とにこにこしながら殿とお話していたり、顔見知りのほかの物頭の方々に声をかけていた。
で、しあさってには大殿もご嫡子と三七さまとともに
直属の軍を引き連れて横山城に到着されるとのこと。
残暑で暑い中、城じゅう大慌てで偉い方や、たくさんの兵隊を迎える準備をした。
上の方は知ってたんだろうけど、こういうことは僕ら下っ端こそ先に聞きたいよ。

元亀三年 七月廿日 佐吉

海の日なので琵琶湖であそぶ
毎年僕は背も低いし色が白いので「おなごのやうだ」といわれて
この日はあまり好きではないのだけど。

最近韮ばかり食わされている
今日も韮のおひたしと韮の味噌汁
そりゃ韮はほっといても育つし今の時期は毎日どっさり獲れるけど
この暑いときに韮粥は勘弁して欲しい。
これを食べると夏ばてしないんだって。
毎日韮のうんこがでてくる。

元亀三年 七月二十一日 くもり 佐吉

昨日ひとりで遊びに行った琵琶湖から帰ると、城門に入るなりおねさまがすごい顔をして
僕に迫ってきて、とんでもないつよさでほおをぶたれた。
「おみゃあにゃあ、こんな戦でてんてこまいなときに、なーにしとるがね!
 市松も虎も紀ノもみんなてんてこみゃーではたりゃあとるに、たーけもんが!!」
しまいにはおねさまに泣き出されてしまった。
あれ、そういえば孫六に「今日は何もないらしいから遊びにでるくらいいんじゃない」と
言われたから琵琶湖に行ったのに・・・孫六、間違えたのかな?

罰として虎御前山の本陣までの石材運びをやらされた。
きんにくもりもりのおじさんたちのなかで、「このうらなりめ」とばかにされながら
石材を運ぶのはすごいいやだったし、くやしかった。
見るに見かねたのか、現場監督の将校の人がぼくを木陰で休ませてくれ、水をくれた。
「ご苦労さんだね、佐吉くん」とやさしく声をかけてくれたが、
羽柴家中の人みたいなのに誰かわからなかった。
まわりのおじさんたちは「ここの受け持ちの伊右衛門さんは存在感のないことで、
わしらまで忘れられそうであかんわ」と馬鹿笑いをしていたが、
確かにあんまり特徴のある人ではないかなあ。

佐吉のひとり言

子供の歯が抜けたのは何歳だっけな
下の歯は天井裏へ上の歯はえんのしたへ放ると
いい歯が生えるっていうのでそうしたら
大きい前歯がはえてきた
大きくなったらこの歯も目立たなくなるのかな
他の歯も大きくなるようにとおもって玄米をたべたら
おなかを壊したので今日も韮粥をつくってもらった

元亀三年 七月廿二日 佐吉

日焼けが水ぶくれになって痛い。
どうして他の人は日焼けで真っ黒くなるのに
僕だけ真っ赤にやけどするんだろう。
黒田さんという薬屋から買ったがまの油を塗ってもらったけど
余計熱くて痛い。これほんとに効くの?

元亀三年 七月二十三日 晴れ 佐吉

小六さんに「こんな戦で大変なときなのになんかうつろで、気がはいっとらんぞ」と
なんと最前線に出ているとのの本陣のそうじ番にさせられてしまった。
わずか数十間離れたところで何千という兵隊が戦ってて、おめきごえと砂けむりがすごい。
とのが話しかけてこられて、
「これだけいくさ場から離れてても、死ぬときは死ぬでのう。
 佐々んとこのガキも、戦場から離れた陣にいたのに流れ弾に当たって死んだでよう」
と笑った。ちょっと笑い方が邪悪な感じがしたのはきのせいかな。
そのうち敵が迫ってきて、とのを守ろうとしたが足がすくんで動けない。
そうしたら馬廻の一柳さんが「佐吉、邪魔じゃ!!」とぼくを担ぎ上げて
後ろ側の幔幕のむこうまで放り投げられた。顔から地面に落ちて、
肌がこすれてすごい血が出た。おかげで助かったけど、あとで市松や虎に
「戦ってもないのにえらい傷だなあ」と馬鹿にされた。

元亀三年 七月二十五日 佐吉

全身怪我だらけなので織田家臣森可成殿の屋敷で子守りをさせられる
おとなしい子だといいなと思っていたら七歳の人形のように愛らしいお嬢さんだった。
「将来はさぞ美しい姫に成られますな」と申し上げるといきなりびんたされた。
男の子だったらしい。お蘭って呼ばれてるし女の子にしかみえなかったよ。
森家のかたはみな武芸が達者なのでお蘭の剣の相手をさせられたが
返り討ちにあい木刀で追いまわされメッタ打ちにされる。
この子太刀筋は僕よりいいみたい・・

元亀三年 七月二十五日 晴れ 大谷紀ノ助

最近、佐吉が何も入っていないようでとても不安だ。
そういえば一週間前に話しかけたときも「ニラ、ニラ」と心ここにあらずという感じで、
ちょっとやばそうだった。
結局佐吉はあっちこっちたらいまわしにさせられたあげく、今は横山城で森勝蔵どのの
弟御の子守をしてるらしい。7歳の子に木刀でやられたと聞くが、大丈夫かなあ?

で、僕らは今人夫の方々と一緒に虎御前山の付け城作りをやっている。
近江の優れた築城のやり方をとりいれるということで、
中村孫平治さんや田中さんが生き生きと指揮をしているというのに、
同じ近江者として佐吉のことが恥ずかしい。
周りを見れば、虎は矢立を取り出して土塁の作り方など必死な面つきで記録していたり、
市松は意地になって石など運ぶので人夫がそれを見て彼をかわいがったりしてる。
佐吉よ、派閥だなんだという前に、これじゃ周りにおいてかれちゃうよ。

元亀三年 七月二十六日 佐吉

なんだか疲れちゃった
夏ばてかなあ。ちゃんと韮粥たべてるのに。
紀之介も最近そっけないしついてないな。
調子が悪いので早く寝る。

元亀三年 八月二日  佐吉

みんなを見返してやろうとないしょでブルワーカーを買う

元亀三年 八月三日  佐吉

ブルワーカーをつかってみたけど結構きつい
筋肉痛になった。
これを使うと筋肉が張るらしいのでもうすこしがんばってみよう

元亀三年 八月五日  佐吉

ブルワーカーが虎之助にみつかっちゃった
「佐吉これなんだよ」って大笑いされた
市松には「これ使っても黒くならないよ」と言われた

紀之介はかばってくれたけどちょっとあきれてたみたい・・・
「佐吉はプロテイン飲んだほうがいいよ」っていわれた

元亀三年 八月五日  加藤虎之助

佐吉のブルワーカーを発見した。
あいつは山歩きや、鍛錬をさぼることが多いから自業自得だ。

さらに義父様の…一物につける…精強リングを発見した。
佐吉のブルワーカー…義父様の精強リング…

そして、まったく使われていない、市松の「見るだけで覚えられる!論語木簡 百二十」

元亀三年 八月七日  佐吉

ブルワーカーのことは僕の黒歴史だ・・
しばらく押入れに封印。
でも高かったしまた使うかもしれないから捨てない。
おかゆにきなこをかけてたべる

元亀三年 八月八日  佐吉

誰もいないからageてみちゃう
今日はおかゆに何入れようかな

元亀三年 八月九日  佐吉

お寧殿が最近元気がない僕を
「佐吉はまだ子供だがや。泣きたあときゃあ泣きゃあええがね
自分の気持ちがわからにゃあええ大人にゃあなれんでよお」
となでなでしてぎゅっと抱きしめてくれた。
僕は里の母上を思い出してわんわん泣いた。

虎と市松は陰でうらめしそうにみてた

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