勘違い里帰り 前編

元亀三年 八月十三日  佐吉

お盆なので暇をもらいルンルン気分で近江に帰る

元亀三年 八月十五日  佐吉

近江に戻ったのになんだか家にいずらい
兄上の祝言がきまったらしく、母上と父上は「これで石田家も安泰じゃ」と
そのことしか頭にない。墓参りでもそのことを先祖に報告していた。
妹も見ないうちにすっかりおしゃまになって僕なんか相手にしない
あんなに恋しかった近江の実家に、もうぼくの居場所は無かった

おかゆに沼えびを入れて食べる

元亀三年 八月十五日 加藤虎之助

佐吉がさいきんわき目も振らずにわが道を歩いていて、不安だ。
おとついは前線のおおいくさもそっちのけで「盆だから」というわけのわからない理由で
ふもとの石田村に帰っていった。盆は先月なのに。
紀ノ助も「佐吉は気が触れちゃったのか?」とかなりおろおろしながら心配している。
こうなったら俺が根性を注入してやらないとだめかな。

それにしても、今回の虎御前山の築城はすごいおもしろかった。
これからのお城は石垣の時代だね。

元亀三年 八月十五日 晴れ 大谷紀ノ助

今日はよく晴れた仲秋の名月だ。
虎御前山の山頂では上さまほか朝倉から寝返った
前波新八郎や富田などとともに茶会を催している。
この戦もわが勢有利。
このままわが軍が居座って浅井郡の野の稲を我が物にすれば浅井は一気に弱まるだろう。
うわさによると浅井の領土である伊香・浅井郡はわが殿に与えられるそうだが、
そうすればぼくらも出世しやすくなるのかな。

石田村の佐吉も同じ月を見てるのかな。
頭の病気を治して、早く復帰してほしいなあ。

元亀三年 八月十六日 佐吉

今日はいくとこもないので一日中ごろごろしている
ばあやがおはぎを作ってくれたのでそれを食べたおいしかった。
村のみんなはいくさのはなしばかりしている。
なんか僕だけ村にかえってきちゃって悪いなあ
今頃紀ノ助君達忙しいのかな。
兄はぼくにことなんかにかまってられず新郎として親族にあいさつまわりにでかけている。
なんかつまらないなあ 
家ではとくにやることもないし
そろそろ帰ることにしようっと

元亀三年 八月十七日 佐吉

瓜をたべる。今年の瓜もこれが最後かなあ

元亀三年 八月二十日 佐吉

横山のお城から手紙が届いた。

石田佐吉どの

 心身ともに本復いたすまで、出仕に及ばず。
 家にて養生すべし。
 かしこ。

               浅野やへえ

えええ!ふるえながら何度も字面をおっていたが、よこから兄貴が覗き込んで
「なんだおまえ、クビか?」
と笑ったのでむかついてぎたぎたになぐって泣かしてやった。
でも市松や虎ノ助じゃなくて兄貴をやっつけてもうれしくもなんともない。

元亀三年 八月十七日 木下寧子

しばらく佐吉の姿がみえない。
春に長兄殿がなくなっておかしくなってしまったかしら。
なんだか落ち込んでるようだったからぎゅってしてあげたのに
秀才は気難しいわね。
早く戻ってくるといいんだけど。

元亀三年 八月二十一日 佐吉

兄貴が親父にいいつけたから物置にとじこめられたよー
くびになった?し なんかさんざんなことがおおいよう
一日なにもたべさせてもらえず物置にはいってたからおなかがすいたよ
あーなんか石田村にも浅井や朝倉の落ち武者が多くくるようになった
おおとのはおおくのてきをあいてにしているからほんとうにたいへんそうだな
あ。木下さまは本当にたいへんそうだなあ
はやくおかゆがたべたいなあ

元亀三年 八月二十一日 加藤虎之助

佐吉のブルワーカーを某人物がくすねて、興奮していた。
あれを見て以来、床に入るときは必ず槍を抱いて寝ている。

元亀三年 八月二十二日 佐吉

狸(むじな?)を捕まえた
凶暴だった。しかも臭い。
肉をやったらキュッキュッといいながら食ってた。
逃がしてやったけどあまりかわいくないなあ

元亀三年 八月二十三日

乱心した石田はここぞとばかりに
自分のいちもつをさらけだし
のぶながにつきつけた
「どうだ、信長、天下はわしの手中にあるのだ」と発言
見惚れた信長は興奮して、おもむろに自分のいちもつをまさぐりだした
「どうじゃ!石田!わしのほうが天下じゃろうて!」

元亀三年 八月二十四日 晴れ 佐吉

今日は村をあげて稲刈りだ。ぼくも駆りだされて稲を刈った。
泥まみれになってしまったところにご新造さんを連れて兄が通りかかり、
「おう佐吉ようはたらいとるな。うちの小作にやとってやるぞ」とか言ったので
むかついて肥溜めに突き落とした。兄は泣きべそをかき、ご新造さんはただおろおろし、
いいきみだった。

そういえばうわさが流れてきて、虎御前山の陣にいる上さまに、
捕虜になって錯乱した朝倉の武士の石田何とかが一物を突きつけ、お手打ちにされたらしい。
なんでもその大きさたるや10寸を越えたとかなんとかいって村の女の子が興奮して話している。
自分のを試しに測ってみると・・・orz。同じ石田なのにすごい差だなあ。

元亀三年 八月二十五日 佐吉

毎晩兄上の部屋からギシギシアンアンと言う声が聞こえる
お嫁さんを虐待してるんじゃないかと心配だ

元亀三年 八月二十六日 佐吉

お城の田中さんから手紙がきた
「おフロと韮粥を用意してまっておる故いつでも戻られたし」

元亀三年 八月二十八日 くもり 佐吉

毎日野良仕事ばかりで、ホントに自分はこのまま百姓で終わっちゃうのかと不安
な毎日を送っているが、今日は同輩三人から手紙が来た。すごいうれしかった。
で、差出人を見ると紀ノ介、増田くん、それに・・・なんと虎之助。

紀ノ介の手紙には身の回りの近況と浅井朝倉との戦のことについて淡々と書いてあった。
増田くんの手紙にはひたすら文中に「さびしい」という言葉が並んでた。
虎之助の手紙には「おまえがいないといじめる相手がいなくなってつまらん」とか書いてあった。
すげえむかついた。

で、手紙の最後には三人ともが百人一首の下の句をつけていた。
紀ノ介「憂しとみし世ぞ 今はこいしき」ああ紀ノ介。やっぱり君はいいやつだよ。
増田くん「われてもすゑに 合はんとぞおもふ」・・・うーん。やっぱキモ(ry
で、虎之助「吾か衣手は 露にぬれつつ」
???・・・さっぱりわからん。とりあえず知ってる句をひっつけただけじゃないのか、 このアホは。

元亀三年 八月廿六日 加藤虎之助

佐吉がいなくなってから紀之介の病気が悪くなったようだ。
体中が腐れ異臭を放っている。
田中さんが風呂を沸かしてくれたが紀之介の入った風呂に
誰も入らなくなってしまった。
病気なので粥を作ってやったら佐吉を思い出して余計落ち込む始末。
佐吉のくそたわけ!

元亀三年 九月二日 加藤虎之助

病気が悪くなった紀ノ介が虎御前山の陣から横山城に後送されていった。
わざわざ宮部の陣から来てかいがいしく毎日風呂をたいてくれた田中さんも、
「これ以上は他家の俺では助けることもできんよ。
 君たち、紀ノ介くんと・・・佐吉くんをよろしく頼むよ」
と拝み倒すように俺らに頼んで、去っていった。ちょっと後姿の背中が丸かった。

その後市松と晩飯を食いながらこのことを話したが、市松が
「でも虎、こういういつ誰が死ぬかわからんところにおったら、
 病気のやつとか気が触れちゃったやつとかいちいちあいてしとれんのじゃないか?
 そりゃあ紀ノ介も佐吉もでぇゃーじな同輩だけどよお」
とか言ったので、ついかっときて殴ってしまった。
思いもよらず力が入っちゃって市松は二間ほどもふっとんだが、
俺も目の前の韮粥がひっくり返って頭からかぶってしまった。
頬についた飯粒をなめつつ思いだす。
そうだ、佐吉は韮粥が好きだったよなあ・・・

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