勘違い里帰り 後編

元亀三年 八月三十日 佐吉

毎晩兄上の部屋から義姉どののくるしむ声がきこえる
男の癖に女の人をいじめるのはゆるせなくてとめにはいろうとしたら
障子の穴から兄上が裸で義姉にのっているのがみえた
義姉どのもはだかだった
義姉どののはだかをみたら急に股間がいたくなって
ぼくはけんかをとめるどころではなくなってしまった。
のぞきをしたからばちがあたったのかもしれない。
僕はすごく悪いことをしてしまったようなきがして
自分の部屋で布団をかぶった。
ねつけなかったけどおきたら寝小便をしていた
やっぱりばちがあたったんだ
でも寝小便なのに敷布団はぬれてないのはどうしてだろう・・・

元亀三年 八月三十日 福島市松

最近、城下に住んでいるお姉さんが気になる。
今日も虎之助に嘘をついて、こっそり見に行った。
とても綺麗な人でお姉さんのことを考えると、頭が真っ白になる。

そして今日…お姉さんを口説く義父様を見た。
俺に気がついた義父様は
「こりゃあ言うてはならんぞ。言わんかったら
必ず取り立ててやる。佐吉や虎之助よりもだ。」
と、約束をしてくれた。

元亀三年 九月四日 木下小一郎長秀

今日は、朝、倉庫の片付け。昼から帳簿。足軽の給料分を計算に費やす。

最近、小姓内の雰囲気が良くない。なにかイライラしていている感じがする。
胸にぽっかりと穴が空いたような……。
そういえば、佐吉を疎開に出していたが、あれからどうなっているだろうか?
明日はたまたま、村長に挨拶にいく手筈だから、ついでに遠出して、
佐吉の健康状態をみてやろう。

元亀三年 九月五日 くもり 加藤虎之助

突然虎御前山の我らの陣にすごいごついおじさんが訪ねてきた。
とのは陣所の入り口までわざわざその人を出迎えた。偉い人なのか?
ぼくや市松も、とのやその人との雑談に加わらせてもらった。
見たまんますごい豪快で明るく、すさまじい戦の光景も楽しげに話している。
俺も大きくなったらこうなりたいなと思わせる人だった。

なんでもこの方は筒井方のおさむらいで、最近松永弾正の攻勢が激しいので
山の上の陣所にいるうえさまに援軍を頼みにきたらしい。
ところがびっくりしたのは、ひとしきり雑談が終わると、きょろきょろと周りを見渡して、
「石田佐吉くんが羽柴どののおそばに仕えているはずだが、
 今日はおられませぬかな?」
え?大和で偶然出会ったことがあるらしい。なおかつその人は、
「彼は見るからに利発そうで、将来いい仕事をしそうな感じでしたわい。
 羽柴どの、彼を大事になさい」
と笑いながら言い、佐吉に会えなかったことを残念がりながら帰っていった。
とのもすごくうれしそうで、「戦が終わったら、石田村の彼を訪ねてやらねばな」と言った。
・・・なんだ、なんだろう、自分のなかに強い感情がたちのぼる。怒りとかじゃない。
生まれて初めて、自分の中にどすぐろい嫉妬のようなものがわきあがってきているのを感じた。

元亀三年 九月五日 くもり 佐吉

相変わらず野良仕事の毎日だが、今日は石田村にちょっとした騒ぎがあった。
朝倉のおさむらいと思われる落ち武者が村に入り込んできたのだ。
頭はざんばらだったが、最近流行の南蛮胴など着けてて、どうも下っ端なんかじゃない。
横山のお城から「落ち武者の首を持ってきた者は恩賞」というお触れがでていたのもあり、
村の若い衆何人かがくわやかまを持っておさむらいをとりかこんだ。
その後は人垣でよく見えなかったが、どうも殺し方が下手だったようで
いつまでもおさむらいの悲惨な叫び声が聞こえていた。
そうだよなあ、おさむらいなんてえばってるけど、一つ間違えばこれだよなあ・・・
そのおさむらいになろうとしてぼくはつい先日まで向かいの山にあるお城にいたわけだが。

恩賞をもらった若い衆が帰ってきた。
「おう、佐吉。お城の小一郎さんとかいう人におまえの最近をいろいろ聞かれたぞ
 まだ気にしてもらえるなんて、うらやましい話やないか」
さて、どうだか。とりあえず今日の野良仕事だけ終わらせて帰ろう。
兄貴のお新造さんの変なうめき声をまた聞くのもちょっといやだが、

元亀三年 九月五日 くもり 増田

さっちゃん・・・うひひひひ・・・
ぐふ ふっ ふっふっ ・・・はぁはぁ

元亀三年 九月六日 佐吉

昨日の晩飯にだいこんを出されたけど残した
そしたら母上が嫌がらせなのか朝飯のおかゆにだいこんをまぜてよこした
それでもだいこんを残したらおうふくびんたをされた
だいこん食べないとおおきくなれへんと泣かれた

そういえば虎之助はだいこんがすきだったような気がする
あいつがでかいのはだいこんばかり食っているからだろうか

元亀三年 九月六日 増田

佐吉が帰っちゃって寂しいなあ。いつ戻るんだろ
実家に帰りますなんてお嫁さんみたいなこと言っちゃって
もう佐吉ったらっ!(はあと
佐吉がいなくなってからブルワーカーを抱いて寝ている
あの色白で華奢な佐吉がこんなんでハアハア筋トレしてるなんて・・・興奮する・・・
でも佐吉がムキムキのマッチョになったらちょっと嫌だゾ・・・
昨晩は佐吉に無理やり大根を食わせる夢を見た

佐吉・・・・・・佐吉!!

元亀三年 九月六日 戸田勝成

長束君が今日もうなされていた。
時々、寝言で「増田・・」と言うが、ぜんぜん分からない。
そのことについて聞くと「勝成、命がほしかったら、聞くな。」と
いつもの長束君じゃなかった。
なにがあったんだろ?確か、増田って羽柴様の家臣だったよなぁ。

元亀三年 九月七日 雨のちくもり 坊主

くやしい。あれから何年経ったか・・・ようやく傷も治ってきた。
あんな小僧二人に木に縛られて辱めをうけるなんて。
会ったらもう一度掘って掘って掘りまくって忘れられなくしてやる。げはは。

元亀三年 九月十日 晴れ 佐吉

川向こうで大きなほのおが上がっているのが見えたので、じいやを連れていってみたら、
ぼくが紀ノ介とおつとめしたお寺がぼうぼう燃えていた。近くの百姓に聞いたら、
なんでも浅井方に味方したとか何とかで織田の兵に焼き討ちされたらしい。
若い坊主が燃える寺の周りで焦げてぼろぼろになった衣もまといながら狂ったよう踊ってた。
よく見ると、昔紀ノ介と寺の木につるし上げた坊主だった。
踊りながら今様も歌っているようなので何の歌なのかじいやに聞いてみると、
200年前に京で流行したものらしい。

「鐘がゴーンとなりゃカラスがカァ・・・戦に焼かれてお寺がボォ」

・・・と。坊主がこっちに気がついた!じっとこっちをにらみつけているよ。
「おい、佐吉やないか!あのうらみ、忘れてへんで。こっちきいや!」
あわてて必死で川を越えて橋って帰ったが、かなりこわかった。
いつかしかえしされそうだ。

元亀三年 九月十日 増田

今日も佐吉の部屋に忍び込む
まず布団と枕を出して臭いをかぐ・・ああ、佐吉の匂いがする。
佐吉のそろばんを発見。そろばんで部屋の中を一通りすべると
そろばんで体中をかきむしって元の場所に戻す。
そしてタンスから佐吉のふんどしを出して履いてみた・・・
ち、小さい・・・
佐吉の小さなふんどしの中でわしのお楽しみ袋は今にもはちきれそうだ・・
そしてカタツムリのような佐吉の一物を想像して何度も抜いた

気がついたら夕方になっていたのでふんどしを脱いで丸めて
元の場所に閉まった。早く佐吉が帰ってくるのが待ち遠しい・・・・

元亀三年 九月十五日 戸田勝成

今日、長束君と休みが重なったんで城下に下りて遊ぶことにした。
石田村とか言うへんぴな村があって、そこで長束君の友達に会った。
確か名前が、佐吉君だった。なんか僕のなかで何かが爆発した。
佐吉君・・・・

「ウホッ・・いい男」

元亀三年 九月十六日 くもり 加藤虎之助

虎御前山のとりでに徳川方のおさむらいが来た。
横山城の上様に会われたついでに、
小谷城や、虎御前山のとりでなどの畿内でのお城の作り方を見聞しにきたとのことだった。
宮部どのの陣から田中さんが呼ばれ、すごいうれしそうに説明していた。
お侍さんのうち、中肉中背でひげのない温厚そうな方が石川どの、
かたぎぬまできんにくでもりあがったすごいごついけど、
田舎くさい顔をしているのが大久保どのというかたらしい。
二人が話しているのを聞くと、

石川 「ほお、畿内の城は石垣だの、地面の削り取りだの、
    どえらい派手な作業をするのだのん」
大久保「そうだのん。だがのん与七、わしらは金がないもんで、
    もっとそのままにある地形を使って城を作ったほうがいいじゃないのかのん」
石川 「やっぱ"ばばみの"のようにやったほうがいいのかのん」

"ばばみの"?ばばあの蓑?
あんまり気になって思い切って"ばばみの"って何ですか?
とお二人に聞いてみたら、大笑いされた。
"ばばみの"とは武田信玄の家来の馬場美濃の守という人で、築城の名人らしくて、
遠江や三河の大事なところに馬場美濃に堅固な城を作られて困っているらしい。
すごい興味があったので、見てみたいと言ったら、大久保さんが顔をくしゃくしゃにして
「おおそうかんそうかん。じゃあ、一緒に遠江まで来るかん?」
と言われたのではいと答えようとしたところでとのに口を押さえられてしまった。
あとでとのに、
「おみゃあ、今三河や遠江なんかに行ったら、死んでまうにゃも」
とさとされたけど、馬場美濃の城、見てみたいなあ・・・

晩飯のときに、今日来た三河のお侍の田舎くさい言葉づかいが話題になった。
「そうだのん、そうだのん、だってさ!」と市松が馬鹿笑いしている。
ん・・・そういえば孫六は三河生まれじゃ・・・
と思ったら市松も同じことを考えたみたいで、
「おう孫六、おまえ三河の碧海の出じゃなかったか?なんで三河弁つかわねえんだよ」
と、市松が言い終らないうちに、孫六が市松にとびかかった。
馬乗りになってすごい勢いで市松の顔をなぐりつけている。
顔は真っ赤で火を噴いたよう、日ごろのおとなしい孫六じゃない。
孫六が叫んだ。
「何いっとるだん、そりゃあ、恥ずかしいからにきまっとるがん!このどばか!!」
そして市松の顔中でこぼこになるまで殴り続けた。みんなあっけにとられていた。
人の方言を馬鹿にするのはやめたほうがいいらしいと今日は勉強になった。

元亀三年 九月一八日 大谷紀ノ介

佐吉は明日戻ってくるそうだ。
やれやれ、これで城内の微妙な雰囲気も改善されるだろう。
虎や市も寂しそうだったし、あいつは案外雰囲気製造主なんだなーと思った。
しかし明日は客人も訪ねてくるらしい …なんでも大殿の盟友だとか。
そそうのないようにしないと。佐吉早く帰ってこい。

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