虎之助三河へ 前編

元亀三年 九月十九日 佐吉

ふなずしとしじみごはんのもとをおみやげにお城に戻ったら
なんだか中のようすがへんだ
みんなピリピリしているし、なんだか異臭がする。
ぼくの部屋は荒らされた形跡があって
ところどころにちぢれた毛が落ちている。なんだか気持ちが悪い

そういえば紀之介が見当たらないので紀之介の部屋に行ったら
腐乱死体がころがっていた。ぎゃああああ
よくみたら紀之介だった。まだ死んでないみたいだ!よかった
ぼくが留守の間に、びょうきが悪くなったらしい
ぼくは紀のがこんなにくるしんでるのもしらないで1ヶ月もあそんでいたなんて!
ぼくはほんとうにひどいやつだ。ごめんね紀之介
これからぼくは、すきなひとができてもけっこんしても、
ぜったい紀之介といっしょにいる、紀之介をひどいめにあわせないとちかうよ!
死ぬときまで紀之介といっしょにいるんだ!
たとえしんでも、紀之介といっしょならじごくにおちてもいい
紀之介、しんじゃいやだ!

元亀三年 九月二十日 くもり 佐吉

朝、さっそくとののいる虎御前山の陣所に行った。
部屋ではとのが「よく帰ったにゃも」とまんめんにこにこしてぼくを迎えてくれ、
おいしそうなお菓子がいっぱいならんでてぼくに食え食えと勧めてくれた。
(朝っぱらからなかなか食べられなかったが)

そのあと人払いをして、とのとお二人になってしまい、どきどきしていたら、
とのがまじめな顔をしてこんな話を切り出した。
「とのに任せられて蒲生郡を支配していた中川八郎右衛門がな、織田家を追放されたなも。
 それもいかんのは中川どのじゃにゃあて、
 弟のなんとかいうのが権六の家来を斬り殺したことだそうにゃも。
 うちの家中におるっちゅうことは、出世して城持ちになっとっても
 少しでも非違があればえりゃあことになってまうってことだがね」
ああ、おっしゃりたいことはわかる。
そのままとのをじっと見ていたら、またにこっとして相好をくずされて、
「だからのう、佐吉、これからも頼むでなも。筒井の郎党がわしの陣に来たとき、
 おみゃあのことをほめとったでよ、将来楽しみなやつだと」
とのはぼくの肩をぽんと叩いて、笑ってその場から去っていった。

元亀三年 九月廿日 大谷紀之介

朝起きたら、横で
ブティックの子供のマネキンがいっしょに寝ていた。ぎゃああああ
よくみたら佐吉だった。近江から帰ったみたいだ・・よかった・・・
俺が寝ている間、看病していてくれたらしい
自分も体が弱いくせに一晩中看病してくれていたなんて・・・
佐吉、いつかお前のために、おれはこの命をかけるぞ
たとえしんでも、あの世で待っていてやる
佐吉、大好きだ

元亀三年 九月二十一日 佐吉

そういえば虎之助がいない。どうしたのか助作に聞いたら、
「ああ、先日来た徳川さまのお使者にこっそりひっついて、遠江に行っちゃったよ。
 馬場美濃の作った城がどうしても見たいとかうなされるように言ってたけど、
 まさかホントに言っちゃうとはなあ・・・」
向こうで作業をしていた弥兵衛さんがそれを聞いて近づいてきて、
「はあ、佐吉が戻ってきたとおもったら、今度は虎之助かよ・・・」
と嘆きながら手紙を見せてくれた。

織田ご家中
羽柴藤吉郎どの

 加藤虎之助どのをお預かり申候。
 手前どもで誓って御守申候故、ご心配無用にて候。
 かしく。

                徳川次郎三郎家中
                  石川はうき

武田信玄の上洛も近いというのに、なんて危ないところへという弥兵衛さんの
愚痴を延々聞かされたが、虎之助の城好きへのきょうみも、そこまでいけばすごいなあ。
初めて虎之助に敬意をいだいた。

元亀三年 九月二十二日 佐吉

なんとおおとのさまにあうことになってしまった。
なんでぼくが?とおもったがしゅつじん前に見かけなかった顔なので
目についた、あってみたいとのこと
おねさまは「おーとのさまはでえりゃあきむずかしいおひとだがや。
けーしてしつれいのにゃあようにするがね」とすごく心配してくれた

んでぼくは木下様につれられておおとのさまの御前にだされた。
おおとのさまは寺を焼くこわいひとだときいていたが
じっさい見てみると公家のやうに眉が細くひげの薄い、垢抜けたお侍さまだった

おおとのさま木下様にねぎらいの言葉をかけるとすぐに人払いをかけてしまった。
あ・・・ぼくひとりになっちゃった、どうしよう
「楽にしてもっとそばへこい」といわれたのでおそるおそる前へ出た
そしてぼくをじろじろみて色が白いとかおなごのようだという意味の言葉をいうと
「佐吉とやら、これを知っておるか」と股間から
おおきくなった大人の一物を取り出して僕にみせた
「さわってみよ」というのでそっと手を出したらおおとのはぼくの手をつかんで
一物をにぎらせた。そしてむりやり上下に動かすと
はあはあ言いながらぼくのてのひらに白いねばねばしたものをいっぱいだした。

するとおおとのはきゅうに疲れたらしく、だるそうに身支度を整え
あとでこれで手をあらうようにと南蛮渡来のしゃぼんをぼくにくれた。
そして今日のことは他言無用であると口止めをしてから、下がるように言ったので
ぼくはそそくさと木下さまのところへもどった。

きのしたさまにおおとのさまはどうだった、気にいられたかときかれたけど
今日のことは話さないと約束したので、話さなかった

元亀三年 九月二十三日 佐吉

南蛮渡来のしゃぼんはすごい。
ぬらすと泡が出て流すとよごれがおちるおちる。
こんどこれをもって紀之介とおフロにはいろう。
ところで最近長い文章がおおいなあ。疲れているのかもしれない

元亀三年 九月二十六日 戸田勝成

今日、夢を見た。ものすごく大きな戦いで、
僕は、佐吉君の指揮する方にいて戦ってたけれど
途中、山の上にいた十九ぐらいのお兄さんが、
いきなり僕の陣へ襲ってきた夢だった。
ほんとにそうなったら僕がぼこぼこにしてやる。

佐吉君のために・・

元亀三年 九月二十八日 くもり 加藤虎之助

故郷にほど近い鳴海の宿にいる。明日には三河入りだ。
石川さまも大久保さまも、びっくりするくらいいい人で、
俺にいろいろ気を使ってくれた。石川さまはさかんにとののことを褒めていた。
「わしゃがの家中にも、
 羽柴どのくらいどえらい頭のきれるのがいれば、もう少し楽だがのん」
自分の主のことをよく言われて悪い気分がするわけはなく、いい気分でここまできた。
でも、なんか誘拐されてしまっているような気もしないでもない。

元亀三年 九月二十八日 佐吉

お虎の姿が見えないと思ったら旅に出ているそうだ。
最近影の薄い市松によると、ぼくが留守の間筒井方の
がらがら声のおじさんがきたらしくて、それ以来前にもまして
建築のお勉強にのめりこむようになったらしい。
ぼくはそのおじさんにこころあたりがあったけど名前がわからなかったので
なんていう名前だったの?と市松に聞いたら
「なんかきのこみたいな名前だった」といっていた。
さびしいのか最近市松の酒の量が増えている。

元亀三年 九月二十九日 佐吉

紀之介とおフロにはいった
なんだかどきどきした
おまえ(ぼく)が女だったら、まちがいなくお嫁にしていたよといわれた
よくわからないけどうれしかった

元亀三年 九月三十日 佐吉

朝しゃぼんをつかおうとおもったらなくなっていた
でも夕方もとの場所にもどされていた
ちぢれた毛がついていた。なんだかきもちがわるい

元亀三年 十月一日 戸田勝成

今日、丹羽さまの命令で羽柴様のいる虎御前山の陣所に行った。
用事も済んで佐和山城に帰るとき、佐吉君がいて声をかけようとしたら、
必死の形相で逃げていた。
そのあとをブルーワーカーを持った変な男の人が、走っていて、
佐和山城でこのことを長束君に言ったら、顔を真っ青にして失神した。
まさかあいつも佐吉君を・・?

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