変態大戦編

元亀三年 十月十七日未明 増田

夜中に佐吉の部屋に忍び込んでみた。佐吉は子供らしい寝息を立てて寝ている
でっかい頭のでっかい目には長いまつげがびっしり生えていて・・・
お人形さんみたいだよ佐吉・・・・
わしは反っ歯ののぞいた佐吉の薄い唇をちゅうちゅう吸った。

元亀三年 十月十七日未明 坊主

佐吉どうしてるかな。この前の行為が忘れられない。
佐吉を想うとむずむずしてくる。
いてもたってもいられなくなったので佐吉のいる屋敷に忍びこんだ。
寝息が聞こえたので屋根裏から覗いてみると、おっさんがかわいい佐吉の唇を・・・
許さん!拙僧のかわいい佐吉の唇を奪う輩を葬らねば気がすまん!
いまに見ておれ!

元亀三年 十月十七日未明 山内伊右衛門

不寝番で城の見張りをしている。
岐阜を離れてはや二年・・・ああ妻が恋しい。
わしのところに来たのは十四の少女だったが、今は娘になってきとるかなあ。

お、小姓の棟の寝所に怪しい影が見えた。
石田佐吉くんの部屋のあたりだ。
「なにやつ!」と小さいながらするどい声で叫ぶと、
二つの影、一つは坊主頭が一目散に駆けていった。
追いかけてひっとらえようとしたが、追い詰めすぎて二人とも城のがけから
もつれながら落ちていき、最後に切り株にでも当たったのか、
衝撃の音と枯葉がたくさん落ちる音がした。

その後夕方に起きたら、増田が体中包帯だらけで歩いていたのを見かけた。
珍しくいくさ場にでも出たのかと冷やかそうと声をかけようとしたら、
なぜかわしの顔を見るなり一目散に逃げていった。

元亀三年 十月十七日 弥三

佐吉から手紙がないなあ。たよりがないのが息災の証拠とはいうが、
それにしても弟ながら冷たい奴じゃ。
仕官の話はちゃんと進めてくれてるのかな?いつ仕官の使者が来てもいいように
寝る前にかならず大小と袴を枕元に用意しているオレの身にもなって欲しいものだ。
このあいだ筋むこうの助作の御堂にあったけど、
「弥三様は思慮深いから仕官先をじっと見定めておいでてすのね」と
遠巻きにひきこもりを揶喩されたよ。片桐一党そのうち見ておれよ。

うーん待ってても埒があかないからこっちから行動してみるか。さて、、、


  チチキトク スグカエレ

  十月十七日            弥三

  佐吉どのへ

元亀三年 十月二十日 佐吉

兄貴からてがみが届いた。
親父がキトクらしい。キトクってなんだっけ?
とりあえず兄貴の言う事をきくのはしゃくなので
てがみでおしりをふいた。ちがにじんでた。

元亀三年 十月二十一日 佐吉

小一郎さんに
「キトクってどういう意味ですか?」と訊いたら
「変わった人」と言う意味だと教えてもらった
確かにうちのお父さんは和歌が好きでちょっと変わっているなあ。
さすが小一郎さんは何でも知っていて尊敬した。
ところでどうして小一郎さんは結婚なさらないんだろう?

元亀三年 十月廿日 加藤虎之助

三河の偉いお侍さんが、内緒でしじみすくいという踊りを披露してくれた
でらおもしろかった。
陣中でこれをやったら士気が跳ね上がることだろう
やればいいのに

元亀三年 十月二十三日 佐吉

最近あさ起きるとくちびるが荒れていたい。
さむくなって空気がかんそうしているからだろう。
くちびるを舐めてばかりいるんだろと言われた。
ぼくはそんなくせないけどなあ。
でも起きるとくちの周りにかわいたよだれの跡があって
むいしきに舐めているのかもしれない。

元亀三年 十月二十五日 佐吉

紀之介がなんだか元気がなさそうだ。
ちょっと脅かしてやろうと後ろから抱きついたら
顔まで包帯を巻いた増田くんだった。

あっ、増田くん放してよ、いやだ
なにするの、増田くんやめて

元亀三年 十月二十六日 佐吉

気がついたらほけんしつで寝ていた
となりで紀之介が泣いている。
ぼくは厠の前で、女の服をきせられてたおれていたらしい。
たしか増田くんにつかまって・・・
ううん、おもいだそうとするとあたまがいたい。
ついでにおしりもいたい

元亀三年 十月二十七日 くもり 羽柴小一郎秀長

午前中 城中の兵糧の数量計算。
午後  北東見張り櫓の増設の工事監督

今日は小姓の紀之助から、涙ながらに訴えられてしまった。
「最近、佐吉が狙われているんです。このままじゃ、気が狂うか、
 殺されるか心配です。だから、なんとかして下さい」
ふぅむ、最近の噂に、増田の修道のことがよく聞くようになるが、こりゃ本当みたいだな。
よし、増田には東の三河に行ってもらおう。武田との戦況も気になる。
あと、佐吉には、見張り組にまわってもらおう。
あそこにいる連中は、ほとんど妻子もちだし、
常に誰かと一緒に居るから、護衛もかねるだろう。
しかし、佐吉もいい友達がいるな。

元亀三年 十月二十八日 雪 佐吉

朝、寒いと思って障子を開けたら粉雪が舞っていた。初雪だ。
この数日、雨が強かったけど、今年も雪の季節がきたんだなあ。
虎之助が今いる遠州や三河はあったかくてあんまり雪は降らないそうだけど、どうしてるかな。
武田信玄が本格的に攻勢を開始して大変だとは聞くけど、大丈夫かなあ。

昼過ぎ、西の曲輪あたりで騒がしい音がしたので行ってみると、
坊主が捕まっていた。
ああ、それも「あの」坊主だ!体中縛られながらも、キーキーいいながらもがいている。
とのの「おおとのの命令以外で坊主を殺しとうにゃーのう」のお言葉もあり、
簀巻きにして姉川に流すことになった。
雨で増水して、今日の寒さですっかり冷たく冷たくなった濁流の中へ、坊主が放流され、
すさまじい叫び声をあけながら下流へ流されていった。
それを見ているぼくの肩をぽんとたたく人があったので振り返ると、
それは小一郎さまで、満面の笑みを浮かべながら
「よかったなも。もうでゃーじょうーぶだがね」とおっしゃった。
その直後、さらに後ろの人並みの中で「げへっ」と気持ち悪い笑いが
わずかに聞こえたような気がしたが、気のせいかな?

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