佐吉仕官編

元亀二年 六月十二日 佐吉

今日はてらこやのみんなで、だれに仕官したいかを話しあった。
長束くんは「ぼくは丹羽長秀様かな。えりーとはえりーとを知るからね」といった。
しょうじき影がうすいものどうしお似合いだと思った。
大谷くんは「僕は・・・うーん・・・羽柴様かなあ」と言っていた。
でもそのまえにびょうきの大谷くんが仕官できるのだろうか。
いつのまにか話にまざっていた市松と虎之助は自分達で天下を取るといっている。
でも市松や虎之助が天下をとったら僕は今よりいじめられるのかなあ。
ところで、増田君が急にずいぶん老けた。ヒゲがぼうぼうになっている。
そのことを増田君に言ったら「下の毛もぼうぼうだぜ、見せたじゃないか」といった。
なんのことかよくわからないけど、人生でいちばん寒気がはしった。

元亀二年 六月三十日 佐吉

今日、大和までおつかいにいってきました。
すると、とんでもなくいかつい顔をしたおじさんが馬に乗って歩いてきた。
「坊主、こんなところまでおつかいとは感心だな」と褒められた。
恐そうなおじさんだったけど、やさしかった。
こんなおさむらいさんになりたいなとおもった。

元亀二年 七月十日 佐吉

今日は、旅支度を整えた

明日から、大谷くんといっしょに羽柴さまを見に
出かけることにしたんだ。おうみのどこかにいる、らしい。
ながいたびになるかもしれない。

大谷くんは
「ぼくのからだは大丈夫、だから行こうよ」
と青い顔で言っていた。
青い顔はいつものことだけど、しんぱいだ。

元亀二年 七月十四日 佐吉

おうみあたりに到着したけどまだ羽柴さまのところまではとおい。
心配どうり大谷くんが倒れた。
だからこないほうがいいよってやさしく諭してあげていたのに・・・
そういえば途中でひえいざんっというところで留学していた前田(玄)くんとあった。
生臭かった。

元亀二年 七月十六日 佐吉

かいどうのとちゅうで倒れた大谷くんといっしょに
道のわきにあったいえのひとのおせわになっている。
大谷くんはなかなかげんきにならない。

ただでおせわになるのもなんなので
薪をわったりしました。


つい記

まきを割ったら割れて顔にとんだ。こぶができた。
馬のせわをしたらうしろ足でけられた。
水をくんだけど、うちにもどるまでに全ぶこぼれた。
畑のざっそう取りしたら、作物までむしってしまった。
家の人は苦笑して、気をつかわなくていいといっていた。

ぼくはどうしてこうドジなんだろう。自分がいやになる。

元亀二年 七月十七日 佐吉

あれ、何だろう、お尻がヒリヒリする・・・

元亀二年 七月十八日 佐吉

今日はかぜがつよかった。そのせいか分からないけど
ひるま、大谷君のぐあいがすごく悪くなった。
せきをたくさんしてくるしそうだった。今はおちついてる。

むかしみたいに走ってあそんだりもうできないのかなあ。大谷君はかわいそう。

いえのひとは今日もやさしかった。

元亀二年 七月二十日 佐吉

大谷くんもげんきになったし、街道のいえをあとにした。
ろくにおれいもできなくてもうしわけなかった。
ふう〜、なんだかからだがいたいけれどきにしないぞ。

きいたうわさによると秀吉さまは
ながはまというところにいるかもしれないらしい。
ようし、行くぞ。今度こそみれますように。

元亀二年七月二十一日 佐吉

何かこころがおちつかない。あしたはそとにでないほうがいいよとむねのなかで
だれかが言っているようなきがする。そらはきょうもあしたもいいてんき。
市松と虎之助はもうながはまにしゅっぱつした、と長束くんがおしえてくれた。
ゆうごはんのあとかたづけをしていたら、たなのゆのみちゃわんから「かたん」
とおとがした。

元亀二年七月二十五日 佐吉

きょう長浜のお寺についた。でも木下さまは外出らしい
ということでお寺でゆっくりしていた。
酉の刻のときになんか小さいくせにえらそうなお侍さんがきて
お茶をくれといった。
僕はまだわかしてないから冷たいのをだすと
「おかわりといった。」
まだわかし中のだからぬるいのを出した
また「おかわり」といった。
やっとわいたからあついお茶をだすと
「見どころがある」っていった。
なんでかな

元亀二年 七月二十六日 佐吉

なぜか長浜のお寺でおせわになっている。
大谷くんがちょううれしそうに
「虎みたいじゃなかったけど、かっこうよかった!」
ときのうからうれしそうだ。なんの話か分からない。
「きのうのお侍さまのことだよ。ちょっと猿みたいだった…」
だそうだ。

大谷くんは趣味が悪いなと思った。

元亀二年 七月二十七日 佐吉

どうも先日ながはまのおてらにきていた小さなお侍さんが
ぼくのことをきにいっているらしいという話を聞いた。
おちゃをいれてあげただけなのに、なにかかんちがいしたらしい。
ちょっとこわいな。
でも虎之助や、市松もえらいお侍さんのところに仕官したらしいし
ぼくもはやくりっぱなお侍さんになりたいな

元亀二年 七月二十八日 大谷

佐吉に仕官のおこえがかかったときいた。
長浜のお寺で出あった猿のような顔をされたお侍さまからだという。
迷っているようだったので
「佐吉のやりたいようにするといいよ」と言った。

佐吉は仕官することを決めたらしい。
すこし羨ましいけれど、よかった。
明日にはもう寺を出て行くという。出世しろよ!

元亀二年 七月二十八日 佐吉

こわい夢を見た。
落ちむしゃの姿で山をさまよっている。はらがへってこまってしまった。
いつのまにか、てきにつかまってしまった。
食べ物をせがむと干し柿をよこした。ぼくは干し柿がきらいだといったら、
「これからお前は死ぬのに、ばかな奴」と笑われたところで目が覚めた。

もしかして、仕官してはいけないということだろうか。誰かにそうだんしてみようか。
でも、夢を気にするなんてばかばかしいかもしれない。わすれよう。どうせ夢だ。

元亀二年 七月二十九日 佐吉

市松と虎之助は木下藤吉郎というおさむらいさんのところへ仕官したらしい。
おいわいを言いに行ったら
「おまえもさむらいになるんだから鍛えないとな」と言われた。
たしかにぼくはけんじゅつがにがてだ。
やつらもたまにはいいこというんだなと思って
「そうだね、市松くんや、虎之助くんみたいに強くなれたらいいな」と
言ってしまったのが悪かった。
すぐにやつらはぼくをおいかけまわし
木下様にもらったという脇差でぼくのおしりをつっついてきた。
多分貰ったばかりの脇差の切れ味をためしたかっただけだとおもう。

元亀二年 八月六日 佐吉

きょうは「しぎさん」と言うところまでお使いに言った。
とちゅうで、悪魔のような顔をしたおじいさんとであった。
おじいさんは僕の顔を見ていきなり「坊主、とぎをせい」と言って来た。
とぎってなんだろうと思ったけど、とりあえずうなずいた。
すると、とても大きなおやしきに連れて行ってもらった。
顔は悪魔みたいだけど、親切なおじいさんなんだなぁと思った。

元亀二年 八月十一日 佐吉

最近、お尻の穴がゆるくなった気がする。
しぎさんから帰り道、へんなおじさんにまた会った。
なにやらわめいている。あからさまにあやしい。
「ここの水田はそれがしのものじゃぁー!!言ってもわからんやつは・・・
 死ね、死ね、死ねーぇい!!」
ぼくがりっぱになったらこんなひとを家臣にしたくないぁ・・・
と、おもいいつつおうみにもどりました。

元亀二年 八月二十日 佐吉

今日はいちにち、刀の手入れをした。
ほごのためにほどこしてある「うるし」をとる作業をした。
一緒に作業をしたどうはいが、「またいくさかもな」といっていた。
どうはいはいくさは怖くていやなのだそうだ。
臆病者だ。ぼくは怖くなんか、ない。

元亀八月二十一日 佐吉

手がかゆくてねむれない・・・。

元亀二年 八月二十日 佐吉

かゆ
うま

元亀二年 八月二十五日 佐吉

今日は殿にお声をかけてもらった…。
何をおっしゃっているのかよく分からなかったけど
すごく嬉しかった。

へんないみじゃない。

元亀二年 八月二十六日 佐吉

今日市松と虎之助に「佐吉、お前俺たちの分も掃除しとけよな」
と、いわれた。
いやだといったら脇差しでつついてきた。
そしたらなんか団子鼻のばかそうなひとが
「ゴルァ!自分の担当は自分でやれ!殿にいいつける」
と怒った。
市松と虎之助は
「ごめんなさい、権兵衛さん」
とあやまっていた。
なんかかっこいいぞ。

元亀二年九月一日 佐吉

今日は槍稽古の日だった。
やけにひょろりとしている同輩といっしょになった。
稽古前はちょうぼんやりしていていたくせに
稽古中はありえないかんじに荒っぽく人が変わって
稽古が終わるとまたぼんやりに戻った。
へんなひとだ。なまえはすけさくだという。

ぼくが手にまめをつくっていたがっていたら
「まめは放っておくとなおる。さわるなよ」
といってすけさくはどこかにいった。

元亀二年 九月三日 佐吉

だんご鼻の権兵衛さんと話をした。
「いくさはなあ、大将が死んじまったら終わりだ!
もしいつかおめーが一軍をまかされて
いくさでまけそうになったら、なりふりかまわず逃げろよ!!」
と言われた。

ぼくが大将になる日なんて
くると思えないけどうなずいておいた。
権兵衛さんはがははっ!と笑った。

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