浅井軍小競り合い編

元亀二年 十一月七日 佐吉

横山のお城に、浅井びぜんのかみが攻めて来ました。
だんごばなの権兵衛さんに聞いていたら、
岐阜のおおとのの援軍が来るまでろうじょうすると言ってました。
まあ勘定みらないの僕には関係ないやと思って、すいじばのごみを捨てに行ったら、
いきなり二人組のよろい姿の敵のおさむらいにでくわしてしまいました。
一人は15歳くらいで体格のよい、額の大きい、でもちょっとおっさんくさい人で、
「間諜にきて、かくもみめのよい少年を見かけるとはおもわなんだぞ。もちてかえりて
 なぐさみにせん」
といい、もう一人はおっさんでしたが、
「与吉どのもお好きですなあ」
とにやにやしながらぼくのからだをなめまわしています。
そのうち若い方の武者がぼくを抱え上げようとしたので、
ぼくは必死に足をばたつかせようとしましたが、
向こうの力が強く、だめかと思いましたが、
「敵の間諜だがね!」と叫びながら虎之助と市松がたすけにきてくれて、 なんとかにげられました。
おかげで虎之助と市松のぶんの便所掃除を一週間しなければならなくなって悲しかったです。

元亀二年 十一月八日 佐吉

だんごばなの権兵衛さんに聞いてみたら、
岐阜のおおとのは東美濃に武田のけらいの秋山とかいうのが
攻めて来たせいで、すぐには援軍にはこれないということでした。

おかげで、ついにぼくもいくさにかりだされてしまいました。
山の斜面をよじのぼってくるやつらに、上から大きな石を落とすのが役目です。
わらわらと上ってくる兵にどんどんと石を投げつけていく様子はまさにじごくえで、
その日の夢にまででてきてこわかったです。
でも、夢のなかの浅井の兵士の顔はみんな増田くんだったのはどうしてだろうな?

元亀二年 十一月十一日 佐吉

なんにちかんも続いていた浅井軍のこうげきがぱったりとやんでしまいました。
代わりに城の周りをなんじゅうにも囲んでいます。
どうしてだろうと思っていたら、大広間でお城のえらい人たちが大騒ぎをしていました。
それをつい、障子越しに聞いちゃったのです。大谷くん、こっそり聞くなんて悪いこと
しちゃったよ。もうしないからね。

竹中さん 「なぜ兵糧が半月分しかないのですか!」
弥兵衛さん「(気弱げに)それが・・・ちょうど二週間みゃあに商人が来て、
      市場の倍(びゃー)の値で買ってくれるゆうんで
      備蓄してた3か月分のほとんどを売り払ってもうたにゃも」
小六さん 「弥兵衛のボケえ!
      それが敵の「かつえごろし」のはかりごとだとなんで気がつかんのじゃあ」
     (激しくなぐる、蹴る音)
竹中さん 「これは一刻もはやく大殿の援軍が来ねば我々は・・・」
秀吉さま 「そういううてもにゃあ、大殿は東美濃で巧みな武田軍の駆け引きに
      翻弄されとるようだでなも・・・」
小六さん 「弥兵衛、おまえ責任とって浅井軍に突撃してこいやあ!!」

ん?「かつえごろし」ってなんだろうと思ってあとでだんごばなの権兵衛さんに聞いて見たら、ずうっとお城を包囲してぼくらを飢え死にさせる作戦だそうです。
そういえば、晩御飯がおかゆだけだったなあ。
大谷くん、こんなひきょうな作戦 を取るやつは、きっとにんげんのくずだよね、そうだよね。

元亀二年 十一月十三日 佐吉

浅井軍が山の中に一つしかない水場をせめとろうとしてきました。
お城の兵隊さんはおなかがへっているせいで、おされててやばいそうです。
ぼくもおなかがへってむかついてきたので、崖の上から浅井の陣におしっこをしました。
そしたらぼくのおしっこでびちょびちょになった立派な鎧を来たじいさんが、
「糞ガキ許さん!、城が落ちたらおまえのけつに軍扇をつきさしてやるからな」
とすごいかおでどなりつけてきました。すごく怖かったです。
でも、ちょっと菊座がむずむずしました。

下からはかすかに「海北どの、みっともないですぞ」と聞こえてきました。

元亀二年 十一月十四日 佐吉

昨日浅井の陣でおしっこした事、怒られるかなと思ったけど
なぜかみんな褒めてくれた。
小六の旦那や権兵衛さん、なんと市松や虎之助まで、びっくりしていた。
おしっこしただけで褒められるのなら、
これからは毎日、浅井の陣におしっこをしようとおもった。

元亀二年 十一月十五日 佐吉

みんな褒めてくれたけど一人尾藤さんだけ怒ってた。
「もう、あぶないからしちゃいけないぞ」、だってさ
そのあとぼくがおちこんでると神子田さんがやってきて
「尾藤は頭が固すぎる、武勇はあるが行動力がない。仲間を見捨てるタイプだ。」
っていってたけどよくわかんないや。

元亀二年 十一月十六日 佐吉

今ごろわかったんだけど、おおとのと敵の浅井の殿様はぎきょうだいらしい。
なんで争うのだろうと、羽柴さまに聞いてみたら、
羽柴さまはなにも 答えず、「おみゃーは大殿ににゃるんじゃにゃあよ」と言われた。
ぼくは羽柴さまにもおおとのにもなれない。
半兵衛さんも羽柴さまもおかしな事を言うと思った。

元亀二年 十一月十八日 佐吉

ついに水場が浅井軍に奪われ、兵糧もあとみっかぶんになってしまった!
お城の中の人は、みんないらいらしていてちょっとやばい感じだ。

小六の親分は手当たり次第に目に付いた人を殴ってるし、
いつもおとなしい(というか存在感のない)年頭のいくじんさんは
「だからなんで俺がサルの与力でこんな目にあわなきゃいけないんだよ!」と
だれ彼構わずわめきたててる。
弥兵衛さんは「ああ俺のせいだ、俺のせいだにゃーも!!」とひがな米倉にうずくまってる。
大谷くんに聞いたら、これが極限状態というやつらしい。
そうか、僕が浅井の陣におしっこしたのもきっと極限状態だったんだな。

そんなこんなしてたら、なんと半兵衛さんがお城からいなくなってた!
よりによって半兵衛さんが・・・とみんなびっくりしてるが、秀吉さまがとりわけ
「あれだけ目をかけてやった半兵衛が・・・ひっとらえて八つ裂きにしてくれる!!」
と怒ってる。ううん、僕たちもうだめなのかな。

元亀二年 十一月二十一日 佐吉

今日、みんなを喜ばすことがあった!!なんと行方不明になっていた
竹中さんが援軍を連れてこっちへ向かっているんだって!!
そのときのみんなの喜びようは・・・いわずもがな。
話は変わるけど、孫六が相変わらずの無口だけど、市松や虎之助がわーわーさわいでいたら
「・・・すこしは佐吉を見習え」といってふたりをだまらせました。
なんかかっこいいなぁ・・・ぼくなんかおなかがすいてだまっていただけなのに・・・

どうでもいいけど、蜂須賀のおやぶんのむすこが独特のむーどをかもしだして
みんなをいやしていた。なんだかなぁ・・・

元亀二年十一月 二十二日 佐吉

昨日の夜、なんか寒いなと思ってたら、なんと雪が積もってた!
水がなくて困ってたみんなは大喜びで雪をかきあつめていた。
これで浅井のやつらもお城を攻めにくいだろうし、よかったよかった。

でも、雪だと援軍も来にくくなるのかなあ。ご飯はなくて、みんな松の木の皮の
アクを取って食べてるのに・・・すごいまずいよお。

元亀二年 十一月二十三日 佐吉

一日吹雪だった。
建物の外から出られない。
水だけ飲んで寝た。寒いよう、おなか減ったよう。

元亀二年 十一月二十五日 佐吉

四百げっと
・・・おなかすいた。孫六は微動だにしない・・・助けて・・・

元亀二年 十一月二十六日 佐吉

今日も吹雪。寒いよう、おなかへったよう。
でも、もっとびっくりすることが。増田くんが雪まみれになって急にぼくの前に来た!
なんでも、敵に見つからないように裏山を雪まみれになりながらよじのぼってきたんだって。
「佐吉、君をあたためにやってきたんだよ」だって。
そんなことより食べ物も持ってなかったうえに、
お城のくいぶちが一人増えたというということをこいつはわかってるのか。
吹雪が終わったらがけからおしっこするかわりにこいつを落とそうと思った。

元亀二年 十一月二十九日 佐吉

雪がようやくやんで、青空が広がってる。でも、みんなおなかが減って動けない。
それでもなんとか水を飲んで、大谷くんと松の皮を取りに外に出ると、
山の下でけたたましい鉄砲の音がなりひびき、ときの声がが聞こえた。
ついに浅井のやつらがお城の総攻撃をしたかと思ったら、浅井のやつらが
ばたばた倒れてく。浅井の軍のむこうを見ると、灰色の鎧をした軍隊がいっぱい鉄砲を
うちかけてる!さらに雪の中をわかんじきをはいたながいやりの足軽隊が突進!
浅井軍が崩れて、北に逃げ出してる!!
「ありゃあ、あの「たてきうり」の紋所は滝川どのだがね。
 兄貴とはは仲が悪いのによう、きたもんだにゃも。あとが面倒そうでかんがね」
と甲高い声で、泥臭い尾張弁を後ろから声をかけてきたのは、とのの弟ぎみの小一郎さま。
端正なお顔なのに、言葉が台無しにしてるよなあとは周りの人。
助かったみたいだけど、いったいどうなるんだろう。

元亀二年 十二月一日 竹中重治

遂に天候が我らの味方になった。この日を待っていた。
今この援軍で活躍すりゃ、そりゃあんた、
このわたしがあの愉快な仲間達から独立できるってもん・・・
いや、このわたしがこの頭脳で天下を制する日は近いということ・・・。
思わず(ニカッ)と連続でしてしまう。
ふふふ・・・このわたしの仮病作戦は誰も気づいては居ないはず・・・
さすがわたしだ・・・
ん?城のがけにだれかが小便をかけられながら落ちそうになっている・・・

元亀二年 十二月二日 佐吉

羽柴さまと滝川さまがかいけんしてた。
「やぁやぁ滝川どの!よくぞ来て下さりました!」
「勘違いするな、大殿の命令だ。俺は貴様のような鼠猿が雪山に埋まろうが
 知ったことではない。」
滝川さまは何かこわかった・・・
滝川どのの家来の方々も、僕たち羽柴軍のみんなにいばっているようだった。
市松と虎之助もそれが気に入らないみたい。

元亀二年 十二月三日 佐吉

滝川さまの軍勢が帰っていった。
あんなにいばられたのに、羽柴さまはニコニコしておしろの外までお見送りしてた。
みると、小一郎様も弥兵衛さんも小六さんも、みんな満面にやけながらお見送りしてる。

滝川さまの軍がお城の門を越えて、階段を下っていく。
この階段だって、昨日まで雪で埋まっていたのを、ぼくらがきれいに雪かきしたものなのに。
とそのとき、滝川さまの近くにいた馬鹿でかいおさむらいが、
こっちをふりむいてでかい声で叫んだ。
「叔父貴、イヌめが俺の家督をうばうのに知恵を貸したサルはあれか?!」
おさむらいは若い人みたいだったけど、真っ赤な鎧を着て、さらに顔にくま取りまでしてる。
頭のおかしい人なんだろうけどなあと思ってたら、
羽柴さまに急に手に持ってたやりを投げつけた!
さすがに戦いになれた羽柴さまはのけぞっておよけになった。

ところが、そのおさむらいは
「はっはっは、冗談冗談」
とでっかいおさむらいさんは一人で笑いしながら軍勢と一緒に去っていった。
滝川さまも周りの兵と一緒に笑ってる。

ちなみに槍は、秀吉さまの後ろにいた増田くんの股間に当たった。
増田くんは泡を口中から吹いて倒れた。今、お医者さまがきて懸命にお手当て中。

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