元亀三年新年編
元亀三年 一月三日 佐吉
さいきん、羽柴さまの元気がない。
大谷くんに理由を聞いてみたら
こんど甲斐の武田信玄という人が信長さまを倒す準備をしているらしい。
小一郎様や弥兵衛さんにも聞いてみたら信玄とかいう人はとっても強いらしい。
羽柴さまに「元気だして」って言っても青白い顔でぼーっとしてた。
もし、信玄とか言うのがやってきたら
「お前は尻を狙われるぞ」って市松や虎之助が言ってたけど何のことだろう?
元亀三年 一月四日 佐吉
忙しくて日記を書くのを忘れてた。失敗失敗
去年の六日のことなんだけどまず股間に槍をかすめた増田くんだけど治療は成功したらしい
僕と神子田さんと権兵衛さんが「やったじゃないか!」といったら
増田くんは「たたないんだ」 だってさ、
神子田さんと権兵衛さんは「そうか」とつぶやいて部屋を出て行った、
傷が治ったのに何が辛いんだろう
元亀三年 一月四日 佐吉
十日から二十五日までは大晦日の宴の準備でいそがしかった。
ぼくは市松や虎之助の分までやらされたから辛くて悔しくて泣いてしまった。
でもそんな僕を増田くんや紀之助くん助作、権兵衛さんまで手伝ってくれた。
みんなありがとう。
ちなみにその後はこのことを権兵衛さんがねねさまに言って二人はねねさまに
お尻を叩かれたらしい、いいきみだ。
元亀三年 一月五日 佐吉
おおみそかはみんなで大騒ぎだった。
こんな大変で命が危ないとこにいて、生き残れたことにみんな喜んでいるみたいだった。
そういえば姉川の向こうにある浅井の小谷城も夜遅くまでずっと明るかったなあ。
元亀三年 一月六日 佐吉
今日は雪で外に出られなかったが、神子田さんが僕や紀之助に増田くん、
それに市松や虎之助や孫六に助作さんなんかを集めて、武田信玄のお話をしてくれた。
神子田さんの話はまるで見てきたような現実味にあふれ、信濃統一戦や川中島の戦い
のお話のときはみんな興奮して身を乗り出したり、布団をかぶって震えてたりしてた。
え、僕?そりゃあ興奮して身を乗り出すほうだよ!
あと武田の家来しゅうの話もしてくれたが、高坂弾正とかいう人は、
信玄のお小姓から出世して、城もちにまで偉くなったんだって!
神子田さんは「おまえらも高坂どののように秀吉さまに気に入られて出世するんだぞ」
と僕たちをはげましてくれた。それを市松が、
「神子田さん、そうはいってもうちの殿サンには、その気がないので難しいなも」
とかいって満座大笑いになっていたが、
僕だけその意味がわからなかったみたいでちょっとくやしい。
お話の終わったあと、神子田さんってすごい知識だなあと紀之助と感心していたら、
話を聞いた中では年長の助作さんが来て、
「なんか前に聞いた川中島の話と全然違うなあ。
山本勘助とかいう人が、きつつきの戦法を使ったなんて聞いて事ないけどなあ。
謙信が使った車がかりの陣というのもホントに使えるのかなあ」
としきりに首をひねっていたが、僕にはまだいくさのことはわからない。
元亀三年 一月七日 佐吉
今日も今日とで正月の大騒ぎ
いつまで続くのだろうか・・・
そしていつまでみんなの食べ後を掃除しなきゃいけないのだろうか
今日佐和山の長束くんから手紙がきた
佐吉へ
あけましておめでとうございます
お久しぶりですね
私は丹羽様は私の算術をかってくれてさらに勉強中です。
そちらはどうですか?
そういえば大谷君も羽柴様の所に仕官できたみたいですね。
彼身体弱いから私も安心しました。
あ・・・あと増田くんもね・・・
虎之助や市松にもよろしく伝えておいてください。
短い文で恐縮ですがこれにて失礼します
長束利兵衛
元亀三年 一月八日 佐吉
幕の内も明け、空も久しぶりに晴れた。
今日はお城の屋根の雪かきだ。
すごい力仕事だったので屋根の上でぜいぜいいってたら、
「何さぼってんだよ」と市松にこづかれて、その勢いで屋根から落ちてしまった。
ちょうどそれを見ていた小六の親分が烈火のように怒り、
市松のおしりをすごい勢いでなぐってた。
いいきみだ。え、ぼく?雪がしょうげきをやわらげてくれてそんなに痛くなかったけど、
みんな心配してくれて、そのあと僕だけ休ませてもらった。いやあ、いいことずくめだね。
落ちた瞬間の市松の真っ青なつらと、
その後の小六さんにぶたれてたときの泣き顔は見てて最高に気持ちよかったよ。
元亀三年 一月九日 佐吉
雪かきもだいぶ終わったので、去年あたりから寝込んでいる竹中さん宅へお見舞いに行った。
竹中さん、全身が雪のように真っ白だった。寒いからかな?
独り言も言ってたけど、まぁいいか。
元亀三年 一月十一日 佐吉
今日から本かくてきに、お侍さんになるための勉強をすることにした。
僕と大谷くんの教育係は弥兵衛さんだった。
正直かげの薄いけど、すごく頭のいい人だ。
でも、見た感じなんかずるがしこそうだと思う。
市松みたいなたんさいぼうの大うつけもきらいだけど、こういう人もなんかきらいだ。
元亀四年 一月十二日 佐吉
今日夕方、紀之助にいきなり呼ばれてお城の裏山に行くと、いきなりほおをなぐられた!
びっくりして紀之助を見ると、なんかすごい顔して怒ってる。
紀之助「佐吉、おまえちょっとまえに市松が小六さんに尻をたたかれたとき、
すごいにやけ笑いしてただろ!」
ぼく 「え・・・そうだった?」
紀之助「自分のしてた顔もわかんないのかよ。
で、あのとき市松はおまえをホントに落とそうと
したわけじゃないのはわかってたよな。なんでかばってやらないんだよ!」
ぼく 「(しばらく黙る)紀之助だから正直に言うけどさ、いつもいじめられてるから、
いい気味だと思ってさ」
紀之助「(佐吉をもう一発殴る)佐吉、俺はおまえの不器用だけど
まっすぐで正義感の強いとこが好きだったのに、
そんな下卑た男になっちゃったのかよ、なあ佐吉、目を覚ましてくれよ!!」
紀之助は大声で泣き出してしまった。僕も、自分がすごい悪いヤツになってたことがわかった。
僕も、すごい泣けてきた。ごめんよ紀之助、ごめんよ!!
そこをちょうど市松と虎之助が通りがかって、
「何二人で泣いてんだよ」
とひやかしてきたので、紀之助と二人で泣き顔のままなぐりかかった。
こてんぱんにやられちゃったけど、ちょっと気持ちよかった。
元亀四年 一月十五日 佐吉
城のけいびをしていたら
大谷くんと市松が楽しそうに
ふたりであるいているのを見てしまった
なんだろう 大谷くんが楽しそうに
してるのに腹が立った
だいたい市松なんかとなにを話すってんだろ?
くそぅ…
元亀四年 一月二十日 佐吉
今日は助作と孫六といっしょに天守閣をみがいた
ふたりは無口なくせに城のなかのうわさをよくしってる
助作が「最近、紀ノがぐあいがいいだろ
堺の薬屋からよくない薬をもらってるという
はなしもでてる 言ってやれよ」
と言っていた
助作が大谷くんのことを「紀ノ」と呼んでることにも驚いたけど
堺の薬屋?よくない薬?どういうことだろ
元亀三年 一月二十八日 佐吉
今日はすごく寒かった
ひばんだったので、大谷君といっしょに
竹中さんのところにお見舞いにいった
竹中さんの家のいっしつに、
殿からの見舞いの品がひもも解かれず置かれているのが見えた
「殿はよくいらっしゃるのですか」と訪ねたら
目を細めて「いいえ」と言う
竹中さんの手の甲には、青い血管が何本も浮いてて
ちょっと怖かった
元亀三年 二月十日 佐吉
きょう、庭で殿が、上半身はだかで
変なおどりをおどっていた。
相変わらず よく分からないおかただなぁ…
元亀三年 二月十二日 佐吉
毎月、このお城には岐阜のおおとのから大量の軍資金が送られてくる。
2000の兵を養うには、十分すぎるほどのきんがくだ。
でも、月末に帳簿を整理してみると、結局いっぱいいっぱいなくらい使われてて、
その半額以上が使途不明金・・・
「これはどういうことなんですか?」と弥兵衛さんに聞いてみると、
片頬で笑いながら「ここは特別な城だでなも。まあいろいろあるんだわ」と流された。
大事なお金の管理が、そんなことでいいのか!!
将来ぼくが帳簿の主任者になったら、ぜったいこんなことにはしないぞ!
そういえば、秀吉さまや小一郎さま、それに竹中さんに小六の親分が
数日間城を留守にするときに、えらく大金を持ち出している・・・
もしかしたら大津か堅田あたりまで繰り出して豪遊してるのかなあ?
元亀三年 二月十三日 佐吉
おね様に出会った。何だか会ってない母上を思い出した。
一人で厠で泣いた。
秀吉さまとおね様が喧嘩・・・いや、秀吉様が暴行されていた。
秀吉さまが殴られていた。おね様はすごく強かった。
市松と虎之助が必死にとめていたが、返り討ちにあった。いい気味だ。
元亀三年 二月十五日 佐吉
きょうは、久しぶりに城のなかで竹中さんをみた。
びっくりするほど白い顔をしながら
「つけあがったおなごほどふゆかいなものはありませんねぇ」
とか言っていた。
ぼくはたまに竹中さんがほんとうにこわい
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