虎之助ツンデレ編

元亀三年 二月十四日 佐吉

久しぶりに石田村の兄貴から手紙が来た。

佐吉へ

 元気にしておるか。石田村の家族は皆息災にて、安心せられたし。
 さて、現在近江の各村に織田弾正大弼から書状が来ておるのを知り居候哉?
 曰く、「一向宗を信じるのは諸人の勝手に御座候が、衆を集めて一揆など
 起こす儀は硬不許申候。この旨、厳しく申伝えるもの也。
 なお、各村名主は連名にてこの旨に従うことを誓紙を提出することにて
 明らかにすべく候。きっと申しつくるもの也。」
 
 織田さまは、近江における一向一揆を鎮めようとしているようだ。
 石田村でも毎日寄り合いを開いておるが、
 石田家は門徒ではなくとも、わが村内にはまことに多く、反発が深い。
 南の坂田郡では今浜の福田寺、箕浦の誓願寺が不穏な動きをしているとも聞く。
 父や兄と敵味方と分かれてしまうこととなるかもしれん。その際には許参度候。
 かしく
                                 弥三

ぼくたちの家族も、そしてぼくも戦国時代に巻き込まれてるんだ・・・
ちょっと震えがきた。

元亀三年 二月十八日 佐吉

お城の北のほうでときの声があがり、鉄砲の音がけたたましく鳴っている。
お城からもひっきりなしに兵隊が出て行く。
なんだろうと紀之助に聞いてみると、
「おまえ知らないのか、浅井の重臣の宮部継潤が城ごと寝返ったんだよ!
 なんでも竹中さんの調略らしいぞ。やっぱすごいよなあ」
ええっ?竹中さんって白い顔してずっと寝てたんじゃないの?
あれはどういうこと?ぼくはいよいよわからない。

元亀三年 二月十九日 佐吉

虎之助と剣の稽古をした。一回も打ち込む事ができなかった。体中が痛い。
そんな僕を見て、大谷君が虎之助と打ち合った。
大谷君は、僕よりは良い勝負をしていたけど、負けた。
くやしいので、幹に虎之助の名を刻んで散々蹴ってやった。すっきりした。

元亀三年 二月二十日 佐吉

お勤めの休み時間に、大谷くんとバカ話をして、僕がボケた。
そしたら、大谷くんのツッコミが「なにゆうとんねん」じゃなくて
「なーにゆうてりゃあすか」って!
何言ってんだよ、言葉まで虎之助や市松といっしょに似てきたのかよ。
僕のいないところでそんなに仲がいいの?

元亀三年 二月二十七日 佐吉

非番だったから、びわこまわりをさんぽしていたら
助作と孫六にであった
検地のてつだいの帰りだというので
いっしょに帰ることにした
助作は、ぼくがなんにもいわないうちから
「紀ノには紀ノのかんがえがあるのだろうさ」
と、ぽそっと言った。孫六が
「…虎之助の、気に入りは、お前だと思っていたけどな…」
と続けたので、ちょっとへんなきもちになった
助作と孫六は、仲がいいっぽかった

元亀三年 二月十八日 竹中重治

ふっ・・・いい天気だ・・・これからのワタシの時代を象徴しているかのようだ・・・
宮部はやはり寝返らせることは出来た・・・
ちょっと「いいものあげるから」と、南蛮名物のアレをあげたらすぐにのってきた・・・
あいつ坊さんのはずなんだが、よもやアレを欲しがったとは・・・
まぁ、いい。この活躍でワタシもようやく信長様からの直臣となれるわけで・・・
いいかげんあの連中には飽き飽きしているのでね・・・

ん?ハゲねずみ・・・いや、貧相な面をした羽柴さまが来たな・・・
ふふふふ・・・あの面を見るのも最後か・・・

元亀三年 二月十九日 加藤虎之助

佐吉は未だに茸恐怖症らしい。武士の癖に何と情けない。
しかも、あいつは剣の腕もからっきしだ。
何時も、馬平のように助言をしようとするが何故か出来ない。
将来、義父様を支える我等が、剣も使えずどうすると思い、佐吉をしごいた。

元亀三年 二月二十日 加藤虎之助

信長様は天下を治める。何時かは「みん」や「ろーま」とかも治めるだろう。
その時は義父様が司令官となり、我等が手となり足となり動かねばならない。
海を渡らねばならぬのに、泳げないと佐吉が死ぬかもしれないと思い、佐吉を水練に誘う。
そこで「おーい!佐吉、水練に行こうぜ。寒中水泳をして鍛えよう!」と言い、
一緒に泳ごうとするが「オラ!筆なんか握ってないで来い!少し、泳いでこいや――!腰抜け!!」と口から出て
佐吉を川に突き落としてしまった。少し後悔している。

しかし…市松、馬平、孫六には普通に言えるのに……何故だ?

元亀三年 二月二十八日 晴れ 佐吉

もうすっかり春で、横山城のふもとの山桜もきれいに咲いているよ。
で、そんな話題をお小姓たちみんなでしていたら、
虎之助が「じゃあ明日みんなでお花見に行こう」と誘ってきた。
どこに?って聞いたら「近場では小谷城の桜が見事らしいよ」
って、敵の本拠じゃないか!何考えてるんだよ、と虎之助を問い詰めると、
「なんだ佐吉は根性なしだな、ほかのみんなは行くよな?」
って聞いたらみんな首をたてに振っちゃった。よりによって紀ノ助まで。
これじゃ行くしかないじゃないか。虎之助のバカヤロウ・・・

元亀三年 二月二十九日 加藤孫六

拙者は小姓だが…一度もあれがない。殿は衆道に興味がないらしい。


………………………少し、がっかりした事は心の中にしまっておく。

元亀三年 三月一日 晴れ 佐吉

ということで(?)、みんなで連れ立って小谷山に花見に行った。
確かにお城の三の丸口あたりでいっぱい植えられてた桜の木は大きくて見事で、
来たかいはあったなあ、と思った。
周りではこんならんせでもいっぱい人が集まってお花見してる。
向こうの木の下ではおさむらいさんたちが酒盛りをしてて、
やたら体格のいいおじいさんがふんどし一枚で踊ってるのをやんややんやで盛り上げてる。
楽しそうだなあとそれを見ていたら、ぼくとおじいさんとが目が合った。
おじいさんはぼくの顔をじっと見てる。そして、
「あ、あれは先の戦でわしにしょんべんをひっかけた羽柴方のガキではないか!!」
うわわわわ、ひっとらえいとの大きな声がかかるや、
武士の一団がこっちに向かって走ってきたよ!
ぼくらはあわてて逃げる。
孫六の足がおそろしく速くてどんどん前に行く。
ぼくは長く走ってるうちにしんどくなって、大谷くんや虎之助や市松にも引き離されていく。
ぼくが待ってよ、と声をかけると、
市松が「あきらめろ、体力のないおまえがいけないんだ」って、そんなあ・・・
それでも必死に走ってたら、いきなり前に木の根があって転んでしまった。
うわあ。ぼくの上におさむらいさんたちが何人も覆いかぶさってきた!
もうだめぽ・・・

元亀三年 三月三日 くもり 大谷

佐吉が浅井方につかまってしまった。
僕がいっしょに捕虜になっても、どうせ役に立たないからこうして逃げてきたが、
横山城はしあさってに織田のおおとのが大軍を引き連れて来るということで大騒ぎで、
竹中さんに小六の親分、弥兵衛さんなんかに声をかけても
ご自分の仕事にひっしで相手にしてくれない。
おねさまや母上も、お城の掃除なんかで手いっぱいでみたいだ。
責任を感じてるのか虎之助がぼくに
「こうなったら俺たちが小谷城に忍び込んで助け出そうぜ」とか言ってたが、
どこにいるのか、それどころか生死すら明らかでないのに、そんなことできない。

元亀三年 三月五日 はれ 佐吉

目が覚めたら、お花見をしていた場所に褌一丁で倒れていた。
夢かと思ったが生きているみたいだ。身包みをはがされていた…
脇差と服をとられただけらしい。しかし、体中が臭い…何か顔と尻
褌がパリパリになっている…あと肛門がとても痛い……なんだったんだろう…。

元亀三年 三月七日 晴れ 佐吉

昨日はふんどし一枚でとぼとぼ歩いてたら、近くにお寺があったのでかくまってもらった。
お寺のお坊さんはぼくに食事と衣服を与えてくれ、
「なにかわけありのようだから、しばらくここにいるといいよ」と言ってくれた。
体がすごくしんどいので二三日休むことにした。
で、今日朝起きてみると、お空が真っ赤に染まってる!
ちょっと高いとことにあるお寺から周りを見てみると、
子供のころよく遊びに行った、余呉や木之本の市や町が炎上してる!!
気がつくとおぼうさんがいて、
「織田の武者どもが浅井についている町を焼き払っているようじゃな。
 容赦のないことじゃ。南無阿弥陀仏」
と、寺の山門のほうからすごい太い声でがなりたてる声。
「ゴルァ!!この寺で浅井方の武者などかくまっておらぬかああ!」
行ってみたら、武者数人が小坊主数人をおどしつけてる。で、一番前で偉そうにしてる
武者を見たら・・・弥兵衛さんじゃん!
日ごろおとなしいかたなのに、まゆげをいからせて、すごい声と顔でおどしをかけていた。
弥兵衛さんはまもなくぼくに気がつき、
「お、おお。佐吉じゃないか」すごいばつが悪そうだった。

元亀三年 三月七日 はれ 加藤孫六

早くしないと、適齢期をすぎて相手にしてもらえなくなるので
こちらから打って出る事にした………。

・策
落ちた物を取る時に少しお尻をふる。

・結果
失敗だった。腰が悪いのか?と心配なされた…良い殿ではあられるが……。

結局駄目だったが…ん?来客か?増田殿が来られたようだ。
ハァハァと、息遣いが襖越しに聞こえる。何かあったのだろうか…うわますだどのなにをすr

元亀三年 三月五日 はれ 加藤虎之助

佐吉が捕まった。鍛錬を怠るから足が遅いのだ。
その晩に、花見へ行ったメンバーで話し合いをしていたが救助の案は跳ね除けた。

これから助けに行く。好かぬ奴でも俺の責任だ。
木剣を二本、腰にさして行くことにする。
この日記が最後になるかもしれないが未練は無い。
義父上、義母上、お世話になりました。

元亀三年 三月 七日 平馬

おとといから行方不明だった虎ノ助がぼろ布みたいに
なって門のところに倒れてた。
手当てをしながらまさか佐吉を?って聞いたら
黙ってるだけでなんにも言わない
そうか やっぱり…

虎ノ助までがんばったのにぼくはなにをしてたのだろう
…ぼくには力はないけれど
さくりゃくがあるんだ…

元亀三年 三月七日 虎

ひんやりとしたかんしょくで目がさめたら
かたわらに紀之介がいた
つめたいぬのでぼくの傷をぬぐってくれてた
ちっ
紀之介は、「だいじょうぶだ ぼくが佐吉をたすけるよ」といいながら
目を細めた
そのかおが 竹中さまに似ていて
すこしこわかった
く くそ…っ

元亀三年 三月十日 くもり 佐吉

やへえさんのおかげで(?)お城に戻れた
あ〜ひどいめにあったよ
城にもどって何日か見なかった大谷くんがきょうはいた
真っ黒い着物をきてて、ぼくのすがたをみると
にっこりわらって
「佐吉〜、無事だったんだね!」って言ってきた
あしくびやからだのふしが痛かったけど
大谷くんがにこにこしてたからもういいや

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