お尻ハンターの最期! 編
元亀四年 四月五日 福島市松
城に来ている絵師が、部屋を一室かりて作業に取り組んでいる。
飯を食っている間に、絵に触らないと言う条件で、お虎と一緒に絵をみせてもらった。
「う〜〜む。この墨一色だけで表現する。これぞ匠の技だな」
「む、そうか?俺には描きかけだから、何を書いているのかまだわからん」
お虎が腕を組んで、頭を悩ましている。
「わかっちゃいねーなぁ。この盛り上がった曲線は、天に突き上げる山を表している。
こっちに描かれてるのは、草だな。きっとこのあと花が描かれるんだろ」
お虎の反応がいまいちだった。
と、そこへ、休憩していた絵師が戻ってきた。
で、俺たちが見ていた反対側に座り、筆を取り出して、再び描きだした。
「この絵は岐阜のお殿様へ献上するための絵ですが、いかがですか?滝で涼んでいる鷹を描くつもりです」
俺が山だと思っていたのは、滝だった。俺が草だと思っていたのは、飛んでいる鳥だった。
お虎の奴、部屋からでてから、笑いをかみ殺してやがる。
……ちくしょう。紛らわしい絵を描きやがって、恥かいたじゃねぇか。
元亀四年 四月五日 杉谷善住坊
京の近くの山奥。眼下に数日前とうってかわって炭で真っ黒になっている瓦礫の街並みがみえる。
鴨川のかわべりに人が集まって避難している。焼けた臭いが服に染み付いてとれない。
「ずいぶんと大仰に焼けたのう」
声をする方にふりむくと、いつぞやあった老人と見たことのない若い大男が近づいてきた。
「果心居士。しばらくぶり」
果心居士のほうもあいさつをすると、傍らの男を紹介した。
そいつは風太郎というらしい。こっちの目を見ながらだまってうなずいた。拙僧を警戒しているらしい。
「おぬし、暇ならちと手伝ってもらえんか?」
なんだかコイツの言うことに胡散臭さをかんじたから、嫌だ、と答えた。
「そうか。せっかく、いつでも夢の中で自分の好きな夢を観させる方法を教えてやろうとおもったんじゃが」
股間が急にピン!っときた。どこまでも正直な愚息め。
「べ、べつに、おぬしのために手伝ってやるんじゃないんだからな」
承諾を伝えると、
「ほ、ほ、ほ。そうか、そうか。ではついてきてくれ」
そういうと、二人とも疾風のごとく走り出した。
おい!拙僧を置いて…、いや、そうじゃなくて、あの歳で、あの健脚。
あいつ、いったい何者なんだ?
元亀四年 四月六日 佐吉
佐久間様の軍中を離れて、再び道三先生のところへ戻る。元々、とびこみの助っ人だったし、片付いたら居場所もないし。
でも、道三先生の医院も丸焼けになっている。
今日はみんなで元あった場所に行ったけど、みごとなくらい真っ黒だ。
「これからどうすればいいんですか?」
「しょうがない。あそこへ行こうか」
自分の仕事場が無くなったのに、先生はあまり落ち込んでいない。
僕たちが先生に連れられていったのは、御所の近くの貴族が住むような寝殿街だった。
「なんだか、すっごく場違いのような気がするんですけど…」
紀之介も僕も周りを気にしてばかりいた。
着いたところはすごく大きな門があるお屋敷だった。先生は、門衛にあいさつをした。
「権大納言様に”道三が参上した”と伝えてください」
少し経ったら門衛が戻ってきて、屋敷の中に入れてもらった。
「来たか!道三!」
質素な白衣をきたお爺さんが、包帯巻いた子供に囲まれて庭にいた。
「人手がゼンゼン足らん。すぐに手伝えい!」
「…わかりました」
先生はおじいさんの顔を見た瞬間にあきらめたようで、しぶしぶと作業衣に着替えて、医療を手伝い始めた。
「言継卿のところだと、ぜんぜん仕事がもうからん」
先生が愚痴ってるところを見るのはひさしぶりだった。
元亀四年 四月七日 杉谷善住坊
一日に何十里も踏破し、明日には尾張を越えて三河に入る。
こっちは二人の背中を見ながら、離されないと必死でついていっているのに、ふたりとも涼しい顔している。
「ほ、ほ、ほ。素人にしては根性がある」
「なぁ、アンタたち、いったい何者なんだ?」
つい気になって質問をぶつけてみた。
だが、果心居士は笑って、風太郎はむっつりと黙って、質問をはぐらかされる。
おもしろくないし、ぐったりとしていたので、すぐに床になった。
元亀四年 四月七日 佐吉
山科権大納言言継卿のお屋敷。
卿は自宅の庭を開放して、青空診療所をつくっている。
おどろいたことに、ここに来る患者は、貴族の子弟だけじゃない。百姓、職人、武士、無宿人…いろんな人でごった返している。
あと言継卿も。この人は本当に奇特な人だなぁって思う。
和歌もやる。笙も奏でる。自ら薬も作る。武芸もたしなむ。とにかくなんでも自分でやっちゃう人だ。
紀之介を見つけると、側にかけよって顔や手を触ってじろじろと眺めた。
「おい、道三。この子に皮膚移植を施したな?ワシにやり方を教えてくれ」
「だめですよ」
「いいじゃないか。減るもんじゃないだろ?」
「教えたら自分でやるつもりでしょう?私だって不可能だと思ってやった手術なんですから」
子供みたいに好奇心が旺盛な人だ。
夕方、お風呂の準備ができたようで、たくさんの子供を引き連れて脱衣所までいく。
言継卿も一緒に、子供の服をぬがせるのに苦戦していた。
かまどみたいな石造りの部屋の中に入ると、暑くて汗がむわっと出た。
元亀四年 四月八日 お香
横山に着いたけど、お金がすっからかんになっちゃった。
昨夜はお城近くの尼寺に泊まらせてもらったけど、これからどうしようかな。どこか武家のお屋敷で雇ってもらったら、あのお侍さんと会えたりするかな。
尼寺の前で座り込んで考えていたら、後ろからだれかに激突された。
びっくりして振り向くと高そうな着物を着た小柄なお侍さんが倒れてる。
「大丈夫ですか?」と声をかけると、そのお侍さんは私の顔をしげしげと見つめてきた。そして唐突に
「こんな所でおみゃあさんは一体何やってりゃーすか?名はなんと言やーすか?」
とあれこれ聞いてきた。なんだか気味が悪いわ。
あ、でも実はこれってチャンスかも。
嘘と真を織り交ぜて、自分を売り込んでみよう。名前は…源氏名じゃなくて本名を使っちゃおっと。
「はい、お侍様。私はお種と申します。出身は山城国、父は地侍の高田次郎右衛門でございます。
先の戦にて両親を亡くし、その菩提を弔うため、諸国のお寺を巡る旅をしておりました。
一昨日あたり最後のお寺をお参りし、ようやく帰路につけたのですが、昨日聞いた噂によると、京の焼き討ちにより家が燃えてしまったようなのです。
帰る所まで失い、こうしてここで途方にくれておりました。
先程の失礼はご容赦下さいませ。」
と言って目を潤ませてみた。
「ほーきゃほーきゃ。おみゃあさんもなかなか大変だったなも。
帰る家がありゃーせんなら、ワシの所で働いたらどうでゃあ?」
あらら、なんだかアッサリと決まっちゃった。
それにしてもこのお侍さん、お猿さんそっくりね。
そして付いていってたどり着いた所は…驚いたことにお城!
住み込みの小間使を任されちゃった。
前回同様、名前を聞くの忘れてたけど、もしかしてさっきのお侍さんって羽柴さま?
私って結構スゴイかも♪
元亀四年 四月八日 羽柴秀吉
今日は凄い収穫をしてしまった。
その名は"お種"。
もの凄い美人で利発そうな娘さん。一目で気に入り即座にスカウトさせてもらった。
しかし年齢を聞いてびっくりした・・・・・・。
最近の子は発育かいいんだな…てっきり二十代かと思ったよ。
すぐにでも側室に…と思ったが、あの年齢はちょっとマズい。それにねねも怖いし。
ひとまず小間使として手中に確保させてもらった。
そして頃合いをみて、いつか必ず側室に…。
元亀四年 四月八日 ねね
白い着物が紅色になった
さる きも
元亀四年 四月九日 杉谷善住坊
三河を過ぎ、蒲郡まで来た所で強行が突然止まった。
「ここで知らせを待つ」
そうして1日ほど宿で寝ながら待っていると、知らせが届いたようで、夕刻なのに出発した。
今日は夜通し駆けるみたいだ。
星を見ながら走ると、どうやら北に向かっているようだが…。
元亀四年 四月十日 溝口秀勝
鯰江城に籠る六角を攻めていたのだが、ひそかに六角に味方していていたとやらで
また寺を焼き討ちにするはめになった。寺の名は百済寺。名からいって朝鮮にゆかりのある寺らしい。
寺はまるで城のような作りで、参道の両側にうずたかく盛られた石垣からは矢玉が飛んでくるし、
各僧院の配置はまるで曲輪のごとし。
我がほうの損害もばかにならなかったが、種子島の多い我が勢にはかなわず、
坊主頭の死体がそのうち各所に積もっていった。
ふう勝ちかと思っていたら、うちのとのがじいっと石垣を見ている。
最近なんかとのの調子がおかしいので大丈夫かと声をかけたら、
「おい、五右衛門!この石、立派なもんだなも!佐和山まで持ってけんかなも」
としきりに石をなでながら感嘆している。石の積み方なんかもしきりに褒めたたえている。
よかった、馬廻から城持ちまで成り上がった殿じゃ、ひとまず安心した。
と、ふと横を見ると戸田が一緒になってしげしげ石垣を見ている。
声をかけてみると、「とのが石垣を見ているので、一緒になってみております」
…このうつけ!「前線に行け!」と尻を蹴飛ばしてやった。
戸田は不満そうな顔をしながら山を登っていったが、どうもたわけとってかんわい。
元亀四年 四月十一日 杉谷善住坊
信濃国駒場。この山肌しかみえない丘にものものしく旗指物がなびいている。
四菱紋。武田軍の旗だ。
「では、ワシはここで待っておる。あとは風太郎の指示に従えばええ」
果心居士はいかないのか?とたずねると、退路を確保する、といった。
で、肝心の風太郎御大は、むっつりかと思ったら、急にしゃべりだしやがった。
「はじめは俺一人でやるつもりだった。そしたらジイはおまえを手伝わせる、と言う」
「……何でもいいけど、こんな物騒なところで何をするのかを教えてくれ」
風太郎は果心居士をむいて、目で確認を促した。うなずいたので、話してくれた。
「法性院を暗殺する」
……なんだか、ここで死ぬような気がしてきた。
元亀四年 四月十二日 雨 杉谷善住坊
果心居士から渡された武田兵士の服に着替え、二人で陣内に進入した。
信玄公はこの館で雨露をしのいでいるようだ。
たしか病で床に伏して虫の息だって聴いているが。
「そんな噂本当に信じているのか?あの謀略大好き坊主の…」
天井裏の梁を伝って目的の部屋へ行くと、下からあやしげな声が…
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁぁぁ…おやかたさまぁぁ〜」
「ここのようだ」
「無茶苦茶元気じゃねぇか」
「お前は前、俺は後ろから。二人がかりで挟み撃ちにするぞ」
板を外して、縄を下ろし、部屋に入って信玄公に近づいた。
公は肝が太いのか、鈍いのか、侵入者が二人目の前にいるにもかかわらず、男の営みを止めようとしない。
「今取り込み中である」
こちらに振り向かず、尻だけ動かして話しかけた。
風太郎はその光景にいささか気色ばみ、武者震いした後、刃物を握って襲い掛かった。
すると、信玄公は小姓を貫いたまま立ち上がり、風太郎は小姓に顔を殴られて吹っ飛んだ。
同時に、拙僧も踊りかかったが、信玄にみぞおちを蹴られて悶絶した。
「うつけめ。交合中の隙を衝かれる罠をはる。これぞ信玄の喇嘛仏(らまぶつ)の構えなり」
吐物をはいてその声を聞いた。
元亀四年 四月十二日 雨 つづき 杉谷善住坊
信玄は昇天してぐったりした小姓を床に降ろすと、拙僧の方に向かって歩んできた。
そして丸太のようなイチモツを手でさすりながら、
「グフフ…源助に引き渡してやってもいいが、久々に楽しもうとしようか、くらえ」
「ぎゃあああ!ふ、ふとい!」
すさまじい膂力で着物をはがされ、さっきの小姓とおなじ体位で貫かれた。
「ふん、ふん、ふん、ふん、ふん」
「い、痛いぃぃ!うごかないでぇ」
「嘘をつくな。こんなに股の竿を硬くしおって。ふん、ふん」
「ら、らめぇ!しごかないでぇ!」
「いやらしい、忍びとは本当にいやらしい輩じゃ、ふん、ふん、ふん」
「あひいぃ!ズンズン挿ってくる〜〜」
すると、壁際でのびていた風太郎が意識を取り戻し、再び信玄に襲いかかろうとした。
しかし、小姓がそれに気づいて羽交い絞めにしておさえた。
体格で勝る風太郎は、しがみつかれたまま交合中の信玄に飛び掛った。
「むっ?お、…お」
虚を衝かれた信玄はバランスを崩し、信玄の上に三人がのっかかる形になった。
ボギィ!
「「あぎゃあぁっ!」」
肛門がかつてないくらい深く食い込み、涙が出た。
すさまじい音を聞いたが、信玄が倒れたあと動かなくなり、白目をむいて泡をふきだし始めた。
小姓が信玄の顔を覗き込み、しきりに名前を読んでいる。
痛かったので抜いてみると、巨木が真ん中から折れ曲がっていた。
「た、退散するぞ」
風太郎にうながされ縄をよじ登って天井裏へ逃げた。
えっ?信玄、死んじゃったの…?
元亀四年 四月十二日 増田
穴掘りの毎日。まことにしんどいが、逃げるすべもない。
日が暮れると、また牢に放り込まれ、与えられたわらにこもって泥のように眠りについた。
夜半、枕元に不思議な気配。飛び起きて見れば、かっぷくのよい、しかしあおざめた坊主が
こちらをうらめしげににらみつけている。ん?遠州二俣で出会ったほうとう屋ではないか?
坊主はうらめしげにわしをにらむと、
「無念じゃ、貴様とあやつごときのためにわしの野望をくじかれるとは…」
と話した。わしは身構えようと思ったがかなしばりにあって、何もできん。
その後しばらく坊主とわしはにらみあったまま正対しておった。その後、坊主は
くやしそうな顔をしながら、
「どうやら貴様の運はとてつもなく強いようじゃ。じゃが、せめてあやつだけは
必ず呪い殺してくれん」
と言った。あやつとは誰じゃ?と聞こうとするまもなく、坊主は
「おぬしが最もいとおしゅう思っておる者じゃ」
とうすわらいを浮かべた。
「うわあああああ!」目が覚めた。周りでは牢にいる者どもがびっくりして
こちらを見ている。ああ、夢であったのかと思ったが、枕元に冷めたほうとう入りの
どんぶりがあった。
そうか、やつが死んだのか。しかし、わしの最もいとおしゅう思っている者が危ういのか!
佐吉、佐吉、すぐにおまえの元に戻るからな!!
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