元服の四人 編
元亀四年 四月二十七日 福島市松
剣の打ち込みのあと、井戸端で汗を拭いていると、木の陰でなにやらしょぼくれている奴がいた。
ちかづくといい年したおっさんだった。
「ああ…私は狩野永徳と申します。我が家は代々、絵師の一族なんですが…実は私だけおちこぼれでして」
内心、あんまり乗り気じゃなかったんだが、勝手にしゃべりだしてるのでしょうがないからつきやってやった。
「父も祖父もそれは名も実もある絵師なんです。けど、私だけ未だにこれはという絵を描けないんです」
ようするに、何を描きたいのか決められなくてウダウダ悩んでるらしい。
馬っ鹿らしい。それだったら、本当は絵が嫌いなんじゃねぇのか?
って言ってみたら、
「ああ……私には筆以外にとりえがないのに。やはり私はダメ人間なのでしょうか」
またひざ抱えてピーピー泣き出したから、佐吉にやるようについぶん殴っちまった。
その後で、佐吉とか紀之介とかお香とかが永徳のところへやってきた。
こいつら、よくつるんで遊んでいるらしい。
四人で折り紙おって暇を潰していた。
「折り紙ですか。なつかしいですね。私も子供のころ、こうやってみんなと遊んだっけなぁ。あのころは楽しかったなぁ」
「狩野さんの生まれは京でしたっけ?」
「はい。ですが、私の育ったところは燃えちゃったんですよねぇ」
そう言うと、急に狩野の手がとまり、何かを思案しだした。
「現実の京の町並みは焼けたけど、私の心の中にはあのころの風景がずっと残っている。
…そうだ。私の絵を見て、すさんだ心が幾分かでもとりもどせる、そんな生き生きとした絵を描けたなら……」
すくっと立ち上がって、急いで仕事場に戻り始めた。
「今度の絵は、非常に大がかりになりそうですよ。」
元亀四年 四月二十七日 杉谷善住坊
発つ準備をしていたら、弥左衛門が鉄砲を手に持って現れた。
「なぁ善住坊、隠し事は無しにしないか。
俺はお前がここに寄った理由を聞いた時、既に分かっていたよ。
また信長を狙うんだろ?
古い好に会いたくなったからなんてお前らしくも無いからな。
怖じ気づいていないか?
この鉄砲は、昨日お前が一番良いと言ってくれたやつだ。
俺の製作技術はまだまだ未熟だが、今の古い鉄砲よりはましだと思う。
どうかこれを使って、成功させてくれないか。」
全て見透かされていたのか。さすが昔共に戦った戦仲間だ。
「だが弥左衛門。俺は今使っている鉄砲で十分だ。それに今から雑賀に行く。
その鉄砲はお前が使ったらどうだ。俺にはもったいない。」
そう言って拙僧はその鉄砲を押し返した。
「じゃ、じゃあ何か俺に出来ることはないか?
俺だって一応、腕に覚えがある。」
「お前の腕の良さは俺も知っておる。仲間の内でも『音羽の城戸』は鉄砲の名手だと名高いしな。
だが、今回は一人で決行したい。
何故なら信長は、俺に最後に残された…あれを諦めた今…い、今すぐにでも…ひと思いにこれで…ハァハァ。
お、おっと失礼。」
「………まぁ、どんな理由があるか知らんが、何かあったら直ぐに俺の所にこいよ。
これが失敗したら後は無いと思った方がいい。悔いが残らんように思いっきりやってこいよな。」
「あぁ、ありがとうな。」
こうして拙僧は弥左衛門に別れを告げた。このまま南下すれば街道に当たるはず。
弥左衛門は姿が見えなくなるまで家の前に立って、拙僧を見送ってくれた。
元亀四年 四月二十八日 佐吉
昨日まで元気がなかった狩野さんが、目の色を変えて仕事にとりくんでいる。
でも少しだけこまったことが…。
東さんとお話していて、東さんに手まり唄を教えてもらっていた。
すると、そのやりとりをみていた狩野さんが、
「イイ!その光景すごくイイ!」
一旦部屋をとびだした狩野さんは、女物の小袖をもってきて、
「佐吉くん、この着物に着替えてさっきの続きをしてくれないか!?後生だ」
ゼッタイ嫌だ、と突っぱねたのだが、東さんまでノリノリで。
しかたなく、着るだけ着てみた。
「あら、ピッタリ!せっかくいい着物着てるんだから、顔もそれなりにおめかししないと」
もう、あとは東さんや他の女中さんたちのおもちゃになった。
髪はくしを入れられるし、顔には白粉、口紅をつけられた。
元亀四年 四月二十八日 紀之介
女中部屋の前を通ったらなにやら騒がしいのでこっそり覗いてみたら
同い年くらいの女の子が女中さん達に着付けをして貰っていた様だった。
色々試し着させられているみたいで次はこの服、と脱がされ始めてしまったので
あわてて目を逸らした。誰かの娘さんだったのかな?
しかしあの子、どっかで見た顔だったけど・・・気のせいか
元亀四年 四月二十九日 竹中半兵衛
庭の手入れをしていると、おかかえ絵師の狩野に声をかけられた。
何でも、今度の作品のために、私をモデルにしたいらしい。
ほう、殊勝な。コイツはどうやら私の魅力をわかっているようだ。
「いいですよ(ニカッ)」
さっそく斜に構えてみたが、もっと自然に先ほどの続きをしてくれとのこと。
半刻ほどで終わった。
「イヤー良かったですよ。丁度、庭いじりのおじいさんのモデルにぴったりだったんですよ」
…お、おのれ。私はまだ二十代なのに。
…私は老けて見られてるのか?
元亀四年 四月三十日 増田
少しは上杉家と言う所が分かって来た。噂通り兵の精強さは天下一のようだ。
厨房の窓から与六が廊下を歩いているのを見た。喜平次殿とも一緒だ。
しかし本当に仲が良さそうだな・・・まるでわしと佐吉のようだ・・・う、佐吉の事を思い出すとまた(ry
等と悶々としていると、向こうから多くの取巻きを引き連れた若者がやって来た。
女子の様な顔をしているのぉ・・・・・・・ん?・・こら、こいつは見境なしか!わしには佐吉がおるのに!
ん?与六がにらみ合ってる・・・あんな表情、わしは見た事もないぞ・・・
やはりどの家もややこしいいさかいだらけだのぉ・・・わしと佐吉を見習え!
元亀四年 五月一日 おね
子供の成長っていうのは早いものね。
背丈はもちろん、顔つきや雰囲気までもなんだか日ごとに大人びてきてるように感じるわ。
私たちのことを親のように慕ってくれる虎之助や市松だけでなく、佐吉も紀之介もそう。
今日は小一郎さんに元服の相談をしてみた。
年頃が少し早すぎるかもしれないと思った。けど、小一郎さんは二つ返事で賛成してくれたわ。
さっそく、みんなの親元へ文を書かないと。
やっぱり、実の親も子供の元服は楽しみにしているでしょう。
元亀四年 五月一日 増田
与六と薪拾いをした帰りのこと、景虎の子飼い達に因縁をつけられた。
雨なんか降ってもいないのに、泥を跳ねられて白袴を汚したのだと。
「水たまりなんかどこにもねーじゃ……」
ワシが与六の代わりに申し開きをしたが、全部いう間もなくぶん殴られた。
「おやめ下さい。喜平次様の御客人ですぞ」
「フン、顕景がどうしたって?ワシらは景虎様のもんだぞ」
そのあとは体を張ってかばってくれた与六まで一緒にボコボコにされた。
「申し訳ございません。お怪我の方は大丈夫でしょうか?」
与六はワシよりも数多く打たれていたのに、自分の手ぬぐいを川でひたして手渡してくれた。
う〜ん、こういうところがかわええのぉ。
「なぁ、与六。さっきの奴らの後をつけていこう」
「…喜平次様のためにも、揉め事はご勘弁くださいませぬか?」
「何もしないよ。顔と行き先を覚えるだけ」
こうして一人一人の顔と家を覚えた。
あの糞ガキどもめ、変態を怒らせるとどうなるかおもい知らせてやる。
元亀四年 五月二日 佐吉
小一郎さまと一緒に石田村へ帰ることになった。
なんでも、僕と紀之介が元服の儀をするんだって。ついでにお虎とお市も。
で、父上に元服を城でおこなうので、その招待状を渡しに来た。
石田村では少し遅めの田植えを行っていた。
父上から、
「おおっ!佐吉、ありがたい。ささ、おまえも田植えを手伝ってくれ」
本当はそんなつもりもなかったんだけど、仕方なく着替えて田植えを手伝った。
そういえば、田植えの時には必ず田楽がいるはずなのに、今年は見当たらない。
「そうなんだよ。毎年、田楽は弥三さんが引き受けてくれたんだけんど、今、ちょうど腰を痛めていて動けないんよ」
たろべえさんは苦笑いをうかべながら話した。
「まったく!アイツはとんだ親不孝者だ。普段から仕事しないのに、年に一度の活躍の場さえ失う体たらく」
すると、あぜ道に座って話を聞いていた小一郎さまが、私が田楽をやろう、と言い出した。
みんなはじめはお侍である小一郎さまにたいして恐縮していた。けど、
♪鉄はカンカンはやく打て 女房はカンカンすぐ土下座
おなごのしっとは矢よりも怖い 殿様なんぞになりたくない
♪五月雨サワサワめぐみ雨 尼寺かよってふる血雨
おなごの怒りは水でも冷えぬ 侍なんぞになりたくない
♪御膳をバクバク八分目 あとは煮炊き女をいただこう
香の物は塩気がきつい 男なんぞになりたくない
小一郎さまは両手に扇子をもって、軽やかに田楽を舞っていた。
おかげで村の人たちは大爆笑。童も唄をまねしてしばらく村ではやった。
元亀四年 五月二日 杉谷善住坊
蒸し暑くなってきた。もうすぐ梅雨に入る。鉄砲には不利な季節だ。
それにしても、汗がベタベタしてかなわない。
街道に出る前に、山道の脇にある川に少し寄っていくことにした。
川に下りていき、深い所を探して着物を脱いで飛び込んだ。
流れが速く、押し流されそうになった。五月の川の水はまだとても冷たい。
しばらく泳いだ後、岩に上がって仰向けに寝転がった。
ふと気になって左腕に目をやる。鬱血した所がなかなか治らない。
信玄暗殺から大体二十日経つ。そう言えば人を殺したのは数年振りだった。
頭上を鶺鴒が横切っていく。撃ち落としてみようと鉄砲に手を伸ばしたが思い止まった。
これでも拙僧は神仏に仕える身、本来なら無駄な殺生は禁物のはず。
だが出家はしたものの、僧侶としてやったことは一揆での指導や参謀の加担ばかり。
それが目的ではあったのだが、甲賀杉谷家の拙僧が寺で念仏を唱えてばかりいるのは到底無理な話だった。
追っ手の目を眩ますために一時期は寺の住職をしていたこともあった。佐吉と出会ったのはその頃か。
そう言えば、佐吉と共にいた子供もなかなかだったが、あれから目にしたことはなかったな。
もし見つけていたのなら、佐吉と共にまた可愛がってやったものを。
色々と物思いに耽っていたら大分時間を喰ってしまった。
いかん。こんな所でグズグズしている場合では無かった。
弥左衛門の所でのんびりし過ぎた分、距離を稼いでおかないとな。
元亀四年 五月二日 樋口与六
昨日の馬鹿景虎の意を借る狐たちにやられた怪我がまだ痛む。
増田さんも一応、お客さんだし、とりあえず大事に扱うためかばったけど、余計に十発は殴られてしまった。
それにしても、昨日、増田さんと景虎党の一味の後をついていったけど、本当になにもしなかった。
が、朝になってびっくりした。
広場にある大きな楡の木に、昨日の景虎党がはだかにされて縄で縛られて樹に吊るされていた。
しかもご丁寧に、全員が菊門から血を流していた。
すぐに直江さまに事を知らせようかと思った。
けど、めったにない機会だな。周りに誰もいなかったし、思う存分、こいつらを腹が痛くなるまで笑いまくった。
あとでそれぞれの家の方々が集まってきたけど、全員面目丸つぶれでいい気味だった。
喜平次の兄ちゃんにこのことを知らせたら、さすがに無口な兄ちゃんでも声を出して笑ったなぁ。
元亀四年 五月二日 上杉謙信
今宵は三郎とその近習達と七人組み手の予定だったのじゃが・・・
何と!わし以外の男に掘られたとな!?
・・・誰か知らんが・・・やってくれた喃・・・
毘沙門天の御加護の下、その卑しい狗を探し出し、掘り尽くしてくれん・・・!!
元亀四年 五月三日 増田
喜平次のところから使いが来て、今日は一日中家から出るな、と。そして、夜になったら屋敷に来い。という連絡があった。
で、言われたとおり、夕方まで家でゴロゴロしていて、夜に与六と一緒に屋敷へおもむいた。
部屋へ通されると、上座にいる喜平次のとなりには、商人風の男が座していた。
「この者は蔵田五郎左。増田どの、この五郎左の護衛として京へつきそってもらえぬか?」
家を出る前からだいたい想像ができたが、この前の景虎党の件だな。
ひょっとしたら、与六と喜平次にも景虎からのちょっかいが来ているのかもしれない。
「うむ。わかった。夜分だがすぐに出立しよう」
「……与六はわしにとって大事な家臣なのだよ」
「ああ、わかってますよ」
餞別に弁当と金をもらい、五郎左と一緒に湊まででかけた。
「増田さま、積荷の準備ができるまで、少しお待ち下さい」
そういわれて腹ごしらえをしようとした。
すると、遠くからたいまつの火が何十本もこちらにむかってくる。
「ひょっとすると、景虎さまの家中かもしれません。増田さまは木箱の中に隠れてください」
言われたとおりにする。やがて、箱のすぐ側で若い連中が荒っぽい声をだして、積荷を改めると言い出した。
五郎左も、これは家紋入りの商品である、とつっぱねてくれた。
だが、景虎党の連中は、槍を突き出して箱の中を確かめだした。
「わわわかった、出る。出るから」
観念して箱から出ると、林のように穂先を首につけられ、身動きがとれない。
「城まで来い。貴様を取り調べる」
…すまん、喜平次、与六。わし、ドジった。
元亀四年 五月四日 増田
春日山城の地下牢で、昨日から拷問を受けている。棒で殴られ、気絶すると、水を浴びせられてむせて起きる。
「いい加減に吐け、われらの仲間に恥辱を与えたのは、貴様だろう?」
「…違う。わしは、む、無関係だ」
再び殴打、水攻めのくりかえし。
景虎が姿を表した。
「こたびの件は御館様もたいそう立腹しておる。これは仏罰じゃ。その方も自分の不利と非を認めたほうが利口だぞ」
「…手前はなんのことだか、さっぱりでして。ゲヘヘ」
すると、景虎の側でずっとこちらへ熱い視線をおくっているブ男に気づいた。
「なんだ、ヤマジュン、こいつに気があるのか?」
「へ、へへ…そうなんですよ。顔を見たときから、一目でこいつはできる、って思いました」
「こいつの名は山本寺(さんぼんじ)順安。われらは”ヤマジュン”って呼んでるが、越後一の性豪だ」
そういわれると、ヤマジュンは目方のある体を震わせて、よだれをふいた。
「どうだ、ヤマジュン、やらないか?」
「ウホッ?いいんですか」
さすがにわしでも青くなった。
…たすけて、佐吉。
元亀四年 五月四日 増田 つづき
「フン、フン、フン、フン」
「痛ぃ〜〜だぁ〜〜〜」
「あ、ちょっと待った」
そういうと、ヤマジュンはわしから離れた。
「なんだ、貴様、もういきそうになったのか?意外とはやいんだな」
「いや、景虎様。ちょっと、小便をしたくなっちまったんで」
すると、景虎はニタリと笑みを浮かべた。
「そうだ。いい事を考えたぞ。おまえ、こいつの中で小便をしろ。きっといい気持ちだぜ」
な、な、なんだって!?
「それじゃ…やります…」
こいつもこいつで…なんちゅう事を考えるんだろう…。
「入りました」
「ああ、次は小便だ」
シャー
「うぐぐぐ…ぐっ」
この野郎、そうとう我慢してたみたいで、腹の中がパンパンだ。
そこへ、与六が勢い良く駆けつけてくれた。
「御館様のご命令です。こちらの増田殿を解放してください」
「なにい?どういうことだ?」
「こちらが文書になります」
与六から手渡された文を景虎が読むと、顔を苦くさせて奴らは部屋から出て行った。
「おい、貴様はマテ」
ヤマジュンを呼び止めて、後ろを振り向かせると、間接を外して顔の真ん中に拳をめり込ませた。
「…ところで、わしを見てくれ。こいつをどう思う?」
「…すごく、大きいです」
ヤマジュンは鼻血を出しながら答えた。
「きさまもわしの小便をくらえっ!!」
「アッ〜〜〜〜〜〜〜」
元亀四年 五月四日 佐吉
石田村の父上たちが、みんなで城へ来てくれた。
うれしいことに、お葉さんも一緒だった。ぼくの元服のはれ姿をみてくれるそうだ。
いよいよ式は明日。
とのが今日になって、
「そうじゃ!せっかく羽柴の小姓が元服するんじゃ。ただで式を挙げるのもつまらん」
ということで、明日の内容が大はばに変更されて、みんなひどくめいわくしていた。
とのって、たいてい思いつきで動くからなぁ。
身内だけの元服式のはずが、横山すべての人にかかわるおおごとになってしまった。
元亀四年 五月五日 加藤虎之助
元服式だ。今日から俺は大人の仲間入りをした。
氏神の社の前で成人服にきがえ、尾張の母上の手で前髪を剃ってもらった。
剃られた部分が青々としている。
母上をみると、涙を流していた。
「ええ、母はうれしいのですよ。亡き御父上も草葉の陰からきっとあなたを見て、喜んでいるでしょう」
「母上、この虎之助、今日まで育ててくれた御恩、一生忘れはいたしませぬ」
口に出して恥ずかしかったが、でも言えてよかった。
烏帽子親の父上から、元服名をいただいた。
今日から俺の名は、加藤虎之助清正。
清く正しい男になってやるぜ。
元亀四年 五月五日 大谷紀之介
元服を終えて、なんだか自分が自分じゃなくなったような気がする。
母さんに着替えを手伝ってもらって、髪をすいてもらった。
部屋から出ると、みんな着替え終わっていた。
虎之助は黄色、佐吉は藍色、市松は朱色、僕は桃色だった。
こんなかぶいた色の服を着るのは初めてで、しかも大勢の人に見られて恥ずかしかった。
けど、お母さんが、
「うん、あんた達の襟がピリッとした姿を見れて、おばさん惚れちゃいそうだよ」
といってくれてうれしかった。
「ありがと、東さんも化粧濃いよ」
「…市松くん、あとでチョットお話があるわ」
市松はもうちょっと、お世辞の言い方を勉強すればいいと思った。
烏帽子親のとのから元服名をいただいた。
今日から僕は、大谷紀之介吉継。
体が病弱だけど、善いことが続けばいいなぁ。
元亀四年 五月五日 市松
元服を終えた。
東の婆め、上手いこと殴りやがる。腹ばかり殴りよるから、表向きは何も変わらん。
血を吐いたが、着物が朱色で助かった。
今度、必ず仕返しをしt…
うわ東様なにをすr
元亀四年 五月五日 佐吉
元服式を終えると、こんどは甲冑に着がえた。
この僕たちが具足を身につけて登場するというかんがえは、前日にとのが思いついたものだった。
「みんなわしの自慢の小姓どもじゃ。具足姿の雄々しい姿もみなにみせびらかせにゃーいかん」
そういって、来るお客さんたちに見物料を請求していた。
なんだか、ていのいい見せものみたい。
目立ちたがり屋ででしゃばりの市松にしては、今回はやけにおとなしかった。
しきりにわき腹を気にしていたけど。
すごい顔して黙って座っていたので、機嫌が悪いんだ。蹴られたくないから近づかないでおいた。
僕だけ着がえに手間取った。僕の用意された甲冑の寸法が合わなかったからだ。
「こんな間際に…。今から代用を用意するなど無理だぞ」
弥兵衛さんたちは慌てていた。
「待て、ひょっとしたら、殿の甲冑だったらどうだ?」
広間のそでから最後に登場すると、一番大きな歓声をあびた。
僕の身に付けた甲冑がとのがいくさでつけているキンキラキンの具足だったからだ。
「ちくしょう、なんだかチビがうらやましいと思っちまったぞ」
お虎は口に出してくやしがった。ちょー気分いい。
「こりゃぁ、佐吉に指揮を取らせたら、いくさも負けちまいそうだ」
小六の親分はいつも一言おおい。
とのに烏帽子をかぶせてもらった時、どんな言葉が好きかや?とたずねられて、
「大一大万大吉です!」
って答えた。
「ひゃひゃ、欲ばりよの。よろしい。その三つとも手に入れてみぃ」
こうして僕の名前は、石田佐吉三也になった。
元亀四年 五月六日 深夜 福島市松
元服のいそがしい一日が終わって、あとは盛大に宴がはじまった。
俺はある計画のため、宴をこっそりと離れた。
こういう横山中がもりあがってるとき、暗闇の中でアレが行われるのを知ってる。
俺はもう大人なんだ。さっそく、作戦開始。
「あら?市松じゃない」
…いきなり嫌なやつに会ってしまった。お香だ。しかし、こいつの体も悪くない。
俺はうなり声をあげてお香に飛びかかった。不意を衝いたようで、俺はお香を押し倒すことができた。
「私、このままあなたに犯されたなら、舌を噛んで死にます」
すると、静かに目をつむり、まったく動じなくなった。俺は眠ったような顔をみてひるんだ」
「…じ、冗談だよ。本気にするんじゃねぇ」
といって、体を起こそうとした刹那、お香が動くと、天と地がひっくり返った感じになって、俺はお香の下にいた。
「いいよ、相手してあげる」
文句を言おうとすると、いきなり口を塞がれた。口の中にあったかくて柔らかいものが舌をかき混ぜる。
無駄のない動きで下を脱がされ、あっという間に入れられた。
俺は抵抗すらできず、お香の腰の動きが激しさをますと、そのままお香の中に出した。
「そ、そんな……。もっと気持ちいいはずなのに……」
「気にしなくていいよ。男の人の初めての時の感想って、君のように思った人が多いから」
お香は別になんとも感じず、腰を浮かせて股の割れ目に指をつっこんだ。
俺はなにやら無性に腹が立ってきてしかたなかった。
「ぐっ…ち、ちくっしょおぉぉ…。なんてことすんだよぉぉ」
すると、手のひらに布切れを投げ渡された。白いものが手についてネバネバした。
「それが貴方の精。それが女の操の中に入ると、赤ん坊がうまれるの。あんた、赤ん坊が生まれたら、養っていけるの?」
お香はすっげぇ怖い顔をして俺をにらんでいた。
「大人って言うのはね、自分のやることにいちいち責任がともなうの。もう、気分に任せて行動しないことね」
そういって城へ戻っていった。俺はただ呆けていただけだった。
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