増田危機一髪編

元亀三年 十一月九日 佐吉

増田くんに生きて帰るぞといわれたせいか、不思議なゆめを見た
おとなになって、おおきな合戦にいくとちゅう、
きれいなおんなのひとが小姓に化けて追いかけてきて
死なないで、かならず生きて帰ってきてと
ぼくにすがりついてなきじゃくるゆめだった
ぼくはかのじょをぎゅっと抱きしめて、なぐさめながら
でもさむらいはしぬのをおそれてちゃいけないんだよ、とさとしていた。

けっきょくゆめだったけど、しょうらいぼくにも
こんなひとがあらわれるといいなあ

元亀三年 十一月八日 坊主

ぐふふ。拙僧は愛しの佐吉を我が物とするために、約3年振りに火縄を手にしている。
そうあの日のように・・・
あの日拙僧は手勢を数名引き連れ鈴鹿山脈へと身を隠しておった。織田信長を撃つために。
狙いを定め、信長のお尻をめがけて引き金を引こうとした瞬間。人面犬(増田犬)に
襲われ、信長を仕留めそこねたのだ。くやしい。もう少しで織田弾正のお尻がわしのものに
それから拙僧は近江の寺の坊主を強姦し、寺の坊主として身を隠していた。
しかし、佐吉と出会って拙僧の人生が変わった。いとおしいよ佐吉ぃぃぃ。ハァハァ

佐吉が拙僧のものにならないのなら、この火縄銃で一思いに・・・ぐふふふ

元亀三年 十一月九日 市松

 虎之助が三河へ行ってもう二ヶ月になろうとしている。アイツのことだから武芸の修練は怠っていないだろう。
 ひょっとしたら、猛将との勇名を馳せている本多平八とかいう方の手ほどきを受けているのかもしれない。
 俺も槍働きで身を立てたいと願っている身、一度は、かのような御仁と触れ合ってみたいものだ。
 いや、変な意味じゃなく。

元亀三年 十一月九日 増田

ただいま三河行きの道中。
今日は、関ヶ原を越え、濃尾平野に入った。今は不破郡のあたりらしい。
さて、このへんで近江にこっそり戻るとしよう。やはり佐吉がいとおしゅうてしょうがないしのう。
と思ってきょろきょろまわりを見回してたら、鎧兜に身を固めた武者数十人に周りを固められた。
先頭はじじいで、わしにきさくに声をかけてきた。
「やあやあ、増田どのであろう。わしの婿どのから、そなたが不破郡内を安全に通行できるように
 警護を頼まれてのう」
びっちり前後左右を武者に囲まれて歩くことになってしまった。周りの土民どもが罪人かと
じろじろわしのことをみて、かなり恥ずかしく、うっとうしかった。
で、不破郡を出たら今度は騎馬武者数騎がわしに近づいてきて、先登のやたらりりしいやつが
「ゴンに若いけどあぶらぎって気持ち悪いのがきたら尾張の国境まで警護してくれと
 頼まれてな。しかたないわい。ちゃっちゃと歩きゃーせ!」
まるで走るようにせかされて歩かされた。
で、いつのまにかここは尾張の国の清洲近く。ああ、また武者数人がこっちに近づいてくる・・・

元亀三年 十一月十日 弥一郎

今日茶々さまに呼ばれた。小谷城の庭の柿の木には、だいだい色の実がなってる
もう秋が来たんだ
「弥一郎、わらわはあの柿の実がほしいぞよ。とってたもう」
つぶらな瞳で茶々さまは僕にそう言った。いつみてもかわいいな茶々さまは
袴のすそを捲って柿の木によじ登ろうとしたら茶々さまに思いっきり平手打ちをくらった
「弥一郎だれが登れといったの?」
びっくりしてその場に倒れた僕の顔を踏み付けて茶々さまは僕を冷たいまなざしで見た
「ほんとに弥一郎はあたまが悪いわ。柿の実はわらわが取るの
 おまえがさわった柿の実なんて汚くてたべられないもの
 おまえはわらわの踏み台になればいいの」

ぼくはおずおずと四つんばいになって茶々さまの踏み台になった
泣き虫のぼくは大粒の涙がこぼれた。茶々さまはぼくの背中に乱暴に乗るとしばらく柿の実をながめていた
ぼくはあまりに悲かったし、たいりょくもないからぶるぶる震えだした
「弥一郎!じっとしてて!」
と茶々さまはいつものかわいい声で叫ぶと何度もぼくの背中をかかとで蹴った
ぼくはそのたびに自分でもびっくりするくらい弱々しい悲鳴をあげて
茶々さまが柿の実を取るのをじっと待った。顔が赤くなるのを感じた
同時に股間のあたりがびくびくとあつくなるのを感じた
茶々さまは柿の実を頬張りながらぼくの背中からおりた
両手にいっぱいの柿の実をもっていた
茶々さまはにっこり笑うとぼくに食べかけの柿の実をくれた
なみだを拭ってあわてて柿の実を食べたらものすごく渋かった
ぼくの股間はずっとどくどくと脈をうっていた

元亀三年 11月11日 とだ

溝口さんが、丹羽様に向かって
「戸田と長束どっちがよかったすか?」と聞いていたが何のことだろう?
丹羽様は長束くんと言っていた気もするが・・
相変わらず長束くんは病気でこの前お見舞いに行くと
「増田・・・増田・」と震えながら言っていた。
あれは体の病気じゃなくて精神的な病気らしい・・とうえだくんが言っていた。
俺9歳の子供より頭悪いのか・・
丹羽様はどんな看病したんだろう?

元亀三年 十一月十四日 佐吉

田中さんがちかくにいたので追いかけて
韮粥つくってとおねだりした。
もうの季節じゃないからとやんわり断られたが
やだやだとごねたらあずきかぼちゃを作ってくれたので
おかゆにかけて食べたちょーおいしかった

元亀三年 十一月十四日 福島市松

虎がいないので孫六とてあわせをするが、飽きてしまったので
佐吉と紀之助を引っ張りだして、総当りをした。
紀之助とは良い勝負ができた。孫六は歳のわりになかなかやる。
佐吉は言うまでも無い。紀之助と孫六にかかえられて帰った。

元亀三年 11月14日 とだ

今日、うえだくんに、牛の時参りについて聞いたら
人を呪い殺すことだと言っていたので、
長束くんに危ないのからもうやめろと、うえだくんと一緒に言いに行った。
そりゃーさあ、あのブルーワーカーの人はちょっと危ないけど多分いい人なんだし・・
と言うわけで危険な香りがする長束くんの部屋に行った。
長束くんの部屋を開けたらものすごい数の藁でできた人形があふれていた。

一番不思議だったのは、藁人形は丹羽様の名前も書いてあった事だ。
何でだろう?


元亀三年 十一月十五日 佐吉

市松に撃剣でこっぴどくやられて体中が痛い…。青アザだらけだよぅ。
市松のやつ、練習のくせに強くやりすぎなんだよ。もう、やだ。
昨日は紀ノ助に介抱してもらった。僕のために粥まで作ってくれて、本当に彼は優しい。
なんか結構痛むので昼にも湯に浸かった。沸かしてくれたのは、紀ノ助。
はぁ…なんで僕はこんなに運動神経が無いんだろう…と落ち込みながら顔を半分沈めてブクブクとしていると
「佐吉、最初から自分にはできないとか考えてたら、何かを成すなんてできる道理は無いんだよ。
 自分は剣もやれる、自分の中にいる強い自分を信じてやってみなよ。それが自信ってやつなんだ。
 いつまでも怖がってないで、市松に勝てる自分を信じて強気で行くのさ。」
とっても親切にしてもらってる分、紀ノ助の言葉はすっごく心に響いた。
ねぇ、なんで紀ノ助はそんなに優しいの?君、難病の身なのに。それと比べて僕は…。
秀吉様に仕官してからというもの、ずぅっと紀ノ助に助けてもらってばっかりだよぅ。迷惑かけてばっかりだよぅ。
紀ノ助の大きな優しさと、自分の小ささを思い知って、やっぱり泣いちゃった。
「ありがとう、紀ノ助…、ありがとう…。僕頑張るよ…」と涙ボロボロで言った。
「大丈夫だよ。佐吉には俺が付いてるから。俺たちずっと友達だからな」と紀ノ助が言ってくれた。
そんな優しい言葉かけられたらさらに泣いちゃうじゃん。えぐえぐ。
でも、今日も体痛いから粥作ってきてくれないかなぁ…。

元亀三年 十一月十七日 佐吉

なぜか増田くんの部屋からぼくのブルワーカーが見つかった。
ひさしぶりにブルワーカーをつかったらからだがぽかぽかしてきた。
ついでにブルワーカーからも変なにおいがしてきた。
洗ったらぬるぬるした。

元亀三年 十一月十七日 雪 増田

道に迷ってしまった・・・。
三河の挙母まで来たのだが、浜松に行く道を畑を耕していたじじいに聞いたところ、
川をとにかくさかのぼればいいというのでそれに従ったら、
山は高く・深くなる一方で、集落もまばらになり、おまけに雪まで降ってきた。
どうやらじじいにだまされたらしい。
ちくしょう、そのうえ宿を土民に借りようとしても、俺の顔を見るなり戸を閉めやがる。
三河のやつらってのはこんないやなやつらばっかかよ。
昨日は無人のお堂で震えながら一夜を過ごし、今日も雪をかきわけながらひたすら歩いていたのだが、
あまりの寒さにこごえそうになり、もう体が動かない。ついに道の脇に倒れ付してしまった。
騎馬武者と足軽数人が向こうから歩いてきた。騎馬武者の背には武田菱の旗印・・・
もうどうでもいい、とにかく「助けてくれ」と叫んだ。
足軽数人が気づき、あわれむようにおれをじっと見ていたが、騎馬武者が
「秋山さまから怪しいやつを相手にするなと命令があったであろう!」
と怒鳴ったので、俺を置いて足早に去っていった。
ええええ、おい、俺、もう、死ぬのか。

もうだめぽ・・・佐吉、佐吉、佐吉!!!

元亀三年 十一月十八日 市松

今日も佐吉と激剣の稽古をやった。珍しく稽古に誘ったのは佐吉の方だった。紀ノ助と田中殿も供にいた。
この間滅多打ちにされたのが悔しくて俺を打ち負かしにきたのか、少しは楽しめると思い付き合った。
立ち会ってみると、前と比べて背筋も立ってるしヘッピリ腰でもない。何より目付きが違った。
なにか心境の変化があったのか知らないが、自信でも付けてきてるようだった。
そこで俺は思った。最近皆は佐吉をよく慕っている。時には虎之助まで肩を持つ。それを俺は正直気に食わない。
こういう自信があるような時にこそ完膚無きまで打ちのめせば、皆こいつから離れるだろうと考えた。
そして紀ノ助の「始め!」の声で俺と佐吉は打ち合ったのだが、佐吉の奴、俺の剣撃をなかなかさばいてくれる。
どことなく剣の受け方が紀ノ助のものと似ているようで、どうやら佐吉は紀ノ助に指南してもらったらしい。
だが、所詮にわか仕込みの剣術。俺が意表をついて打てばもろく崩れて弾き飛ばされた。
「勝てないってのが分かっただろ?そのまま寝てろよ」と俺は親切に忠告してやったんだが「まだまだ」なんて生言いやがる。
そして今度の立ち合いでは腹に一本入れてやった。一応手加減はしたが、やっぱり効いたようで丸くなって呻いていた。
しかしそれでも佐吉は向かってきた。体力も無く才能も無い佐吉のくせに、俺は癪に障って手加減せずに打ち込んだ。
そしてまだ佐吉は諦めない。
「少しは根性ついたみたいだけどよ、往生際が悪いぜいい加減」と俺が言うと「口動かさないで剣動かそうよ」と佐吉は言ってくれた。
こいつ皆にかまってもらってるからと調子乗ってるんじゃないのか?
稽古での怪我なら、ねね様も文句は言わないだろう。俺は佐吉の歯でも折って黙らせようと突きを見まった。
すると佐吉、俺の突きをさばいて剣を弾き、振りかぶった。ちょっとヤバイと思ったけど、そのままバタンと倒れた。
立ってるのもやっとだったようだ。そんなもんで俺に強がり言うなんて身の程知らずもいいとこだ。
佐吉は紀ノ助に抱きかかえられていった。また誰かに介抱されて悔し泣きするんだろうな。
「結局佐吉は佐吉だな」と俺が笑ったら、「最後のはどう見てもお前が危なかったよ」と紀ノ助に言われた。
何なんだよ一体。気に食わないから今日はヤケ食いした。

元亀三年 11月18日 とだ

今日、長束君の部屋の掃除をした。
数えただけで50体以上の藁人形があった。
増田と書かれたのが、36体奥の方に閉まってあって
最近のものは丹羽様の物ばかりだった。
長束君に訳を問いただしても喋らなかった。
長束君の部屋から帰るとき上田君がボソッと
「長束も掘られたか・・・」と言っていたが
上田君はなぜ丹羽様の名前が藁人形に書かれていたのか分かったのかな?
やっぱり頭がいいな上田君は・・

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