さよなら紀之介編
元亀4年 1月7日 はれ 佐吉
今日は粥にカステラを入れて食べてみた
正直微妙な味だった
昼過ぎに紀之介に所へ行ったら小一郎さまと何か話していた
どうやら紀之介の病気が悪化してるから
京で有名な曲直瀬道三せんせいの所に行くのを薦められてた
けど紀ノ介は
「佐吉が市松にいじめられるのが心配」
と、言って京行きをずっと拒んでた
紀ノ介が安心して京に行けるように市松に
苛められないところを見せないと!
市松に決闘状を送った
明日の決闘に向けてブルワーカーできたえるぞ!
元亀4年 1月7日 はれ 加藤虎之助
佐吉が遊びも断り、自室に籠もっている。おかしいと思い、部屋を覗いてみたら
正座をしてインチキ商品をつけている。
なぜ今更と思い、孫六に事の次第を聞くと事細かに教えてくれた。
いやがる佐吉を裏山に引っ張りだして鍛えてやることにした。
木刀で散々打ち込んでやった。
手加減はしたが、木刀は痛い。何とかならないのかなぁ・・・。
元亀四年 1月6日 とだ
正月だと言うのに、城内があわただしい。どうも足利将軍に反旗の疑いがある
そうだ。溝口さんと桑山さんは、取ってもいないのに、やれ誰々の首を取る。
いーや俺は、あいつの首を取る。と張り切っている。長束君は、戦争にゃ関係ない
と言い張ってるし、うえだくんは、父親の看病で忙しいらしい。
なんか皆変わったなぁ・・・・
元亀四年 一月八日 佐吉
昨日お虎がセリをいっぱいつんでもってきてくれたので
塩を入れておかゆにした
とても大きなりっぱなセリで
ほろにがいけどさわやかなにおいでとてもおいしかった
食べたあとブルワーカーでうんどうをしていたら
なんだかすごく息が苦しくなってきてブルワーカーどころじゃなくなってきて
ぐえええなんだかはきけがするよ
厠に行こうとしても からだがひくひく思うようにう ごか い
元亀四年 一月九日 未明 増田
途中空腹で何度も死にかけたがようやく戻ってこれた。
とのへお目通りは後回しにするとしてまずは佐吉じゃ佐吉。ようやく会えるよ佐吉ハァハァ…
うきうきしながら佐吉の所へ行くとなんと口から泡を吹いて倒れているではないか。
くそう。わしのいない間に何があったというのじゃ。
とりあえず布団を敷いて佐吉を寝かせてやる。ついでにわしもその隣に潜り込んだ。
これからはわしがずっと側についててやるからな。佐吉かわいいよ佐吉ハァハァ
元亀四年 一月七日 木下寧子
お虎が七草がゆにといってセリを摘んできてくれた
でもまあこりゃあ全部毒せりだがね。
せっかくとってきてくれたお虎が可哀想なので
普通のセリをお虎が摘んできてくれたセリといって粥に入れて振舞った。
元亀四年 1月9日 未明 佐吉
なんだか荒い息で目覚めた
とりあえず気持ち悪かったので隣に吐いてしまった
誰か居たような気がしたけど気のせいかな?
あっ、いけない 決闘をすっかり忘れてた
今から急いで決闘の場所に向かうぞ
あれ… からだが 思うよ にうご か い
何とか這いながら指定した場所に行くと市松が怒った形相で待ってた
紀ノ介の為にも勝たなきゃならないけど からだが おもうように う ごか い
元亀四年 一月九日 福島市松
佐吉からけっとう状をうけとった。な、なんでだ?
どういう理由でそういうことになっちゃったの?
とりあえず力と立場の差を見せ付けようと、兵法にならって寝込みを襲うことにした、
佐吉の部屋のふすまを思い切り蹴り飛ばし、「佐吉、覚悟!」と叫んだら、
うげえええ!佐吉のとなりに脂ぎった30前の男が添い寝してる!
よく見たら増田。こいつ、いつのまに戻ったんだ?
そのまえにこいつら、そういう関係だったのかよ。
気分が悪くなったので部屋を出ると、蒲生さまが仁王立ちしていた。
「事情は知っておるぞ。寝起きを襲うとは卑怯者め、貴様それでも男か!!
このアホたれ!」
おもいきりほおげたを殴られ、数間もふっとばされた。
その後一応けっとうのばしょにいったら、佐吉がはってやってきた。
痛いのを我慢するためにこわい顔をしていたら、佐吉はなぜか気を失った。
仕方ないのでやつのへやまでかついでいき、布団に寝かしてやった。
夜が明け、大広間にみんな集まれというので行った。
行ってみると一座の真ん中にいるのは・・・増田!!
とのは「増田、ご苦労だったなも」とかおじゅうしわくちゃにして増田をほめ、
三方にうずたかく積んだ砂金を与えていた。
増田は例によって「ゲヘゲヘ」と気味悪い笑いを浮かべながら金を受け取っていた。
周りの人に「どうして増田は表彰されるんだ?」と聞いたが誰も知らなぁった。
なんなんだ一体?
あまりに今日は起こること全てがわけがわからないので、
昼前ながら酒をくらって寝ることにした。
元亀四年 一月十日 竹中半兵衛
三河に攻め入った武田軍は、燎原の火のごとく各城を攻め落とし、順調な西進をおこなっていた、はずだった。
三方ヶ原での戦いの後、進軍するはやさが、私が考えていたよりもかなり鈍くなった。
そして増田の報告を聞き、すべてが合点した。
武田信玄は病に倒れている。
殿はこの知らせをすぐさま岐阜の大殿へ知らせ、大殿も虎御前山、近江石山などすばやく転戦する。
それにしてもさすが大殿の悪運だ。この目の前に迫った危機の中、一番怖い武田から瓦解しかかっている。
どうやら、コイツの出番はなさそうだ。
武田が三河を越えて、尾張へと入り、大殿と信玄がぶつかる時、我ら一族が再び岐阜城へと攻めあがり、留守を衝いて城をとる。
そして、場外の武田軍を呼び込む手筈の手紙。
もう、用済みなので、墨に投げ入れてすべて焼却した。
元亀四年 一月十日 佐吉
吐き気とけいれんも治まってやっと起きられるようになった
すごく濃い汗をかいていたようで体中の汗が白くてべたべたしていた。
外が騒がしいので見に行ったらお城の前で増田くんが
胴揚げをされていた。一体何があったんだろう?
でも胴揚げの途中増田くんのフンドシがはずれて大騒ぎになった
増田くんの片金が見えたなんて忘れたい
元亀四年 一月十一日 佐吉
体調はだいぶなおってきたようだ。まだ食べられないから、塩をふくんだ水を飲む。
三河から帰ってきた二人、虎之助と増田くんの二人に人だかりができている。やっぱり、みんな三河での話題を聞きたがっているらしい。
ぼくも紀之助と一緒に話を聞く。
記者会見は、終始、増田くんがしゃべりまくっていた。途中、武田兵にみつかったこと、命からがら逃げ出したこと、あやしい坊主にであったこと。
虎之助はというと、
「俺は……捕まって、牢屋暮らしだったからなぁ」
ということで、あまり口数が多くない。あやしい坊主の話になると、急に青ざめてお尻をもぞもぞとさせている。そういえば、ぼくももぞもぞっとした。
助作「しかし、増田くんがそんな密偵の特技があったなんて、みなおしちゃったよ」
増田「いやー、できる男っつーのは、何をやらしてもできちゃうもんですわw」
むっ!?なんだかムカツク。この後の増田くんは、大またで歩くようになり、女中さんとかのお尻とか勝手にさわり回っていた。
元亀四年 一月十二日 佐吉
やっとたべられるようになった。ひさしぶりにおかゆを二杯食べる。
さいきん、ずっと寝てばかりで、ぼくの世話を紀ノ介がやってくれている。
「いつもごめんね」
「気にしないでよ。困っているから力になりたいんだ」
紀ノ介には悪いと思いつつ、やっぱりうれしく思っちゃうなぁ。
でも、いつまでも甘えてばかりいちゃだめだ。だって、紀ノ介だって病気もちで、本当は京へ行かないと行けない身なんだもん。
よし、決めた。明日から訓練を開始しよう。そして、今度こそ決闘を申し込んで、紀ノ介なしでも大丈夫なところを見せるんだ。
紀ノ介だけにはしっかりしているところを見せたいな。
元亀四年 一月十二日 くもり 三郎兵衛
冬ももう終わりに近いのか、眼下の豊川は水量をましてごうごうと流れている。
今、我らは三河の野田城を包囲している。
こんな小城相手に陣地構築やら金堀衆の投入など、物物しいことだ。
というのも、とののお加減が依然として悪く、それが織田徳川に気取られるのを避けるために
城を攻めているという姿を見せつつ、とのに休息していただいている次第だ。
あの日、とのは情報収集と称して民草に身をやつしてほうとう屋をしておったが、
その際にでくわした織田の間者らしき者を御自ら追い払われたのはよかったものの、
それからのとのはねやで男相手でも女相手でも戦うこともかなわで中折れするばかりで、
むしろそれをどうかしようと毎日はげむうちに本当におやつれになってしもうた。
あの間者、なにかの閨房の術でも心得ておったに相違ない。
そのおやつれのなか、先の三方ヶ原では寒風に丸一日身をさらしてしまい、
ついに合戦後まもなく倒れられてしまった。
今とのの枕頭にあるが、丸々太っておったとのがいまや頬もげっそりとこけ、
顔も青白くなっておる。
ああ、千軍万馬もものとせぬ我が信玄公が、なんと間者の尻に敗れようとは。
こんなことで我らの夢が終わってしまってよいものか!!
無念じゃ!無念じゃ!
元亀四年 一月十三日 佐吉
同僚の山内さんに強さについてたずねてみた。
「ほう?強い男ってなにか?と。そうだな、ワシなんか権兵衛なんかは強いと思うけどな」
そう聞いて、仙石さんに尋ねた。
「なに?強いってなにかって?そりゃぁ、相手を力いっぱいなぐって倒すことだよ」
その答えじゃなっとくできなかったので、もうすこしくわしくおねがいした。
「ええ……?そうだな、相手をもちあげて投げとばすことだな」
まだしぶい顔をして困っていた。
「まだわからんか。相手を組み伏せて、まいった、と言わせることだ」
権兵衛さんのいう強いっていうのはわかった。そこで、どうやったら強くなれるかをたずねた。
「そりゃあ、ワシのようにでかい体があれば、だれだって強くなれるぞ。そのためには、まず、食い物だがね。好き嫌いをなくして人一倍食わなきゃいかん」
ぼくは渋柿が苦手なんだよなぁ。でも、強くなるためだ。今日から腹いっぱい食べるぞ!
元亀四年 一月十四日 佐吉
今日は増田くんから柔の乱取りを教えてくれた。なんでも寝技は得意中のとくいらしい。
芝の上でとっ組あう。耳元に「ハァ…ハァ…」と息をふきかけられる。
かんたんにあお向けにさせられて、固められてしまった。
「いいか、あお向けの相手を横から押さえつける。これが『横四方固め』ちょうど、顔がちくびに、……胸に顔をおしつけるかんじだな。ゲヘッ。」
次は、『縦四方固め』顔がおへそを押さえつけていた。
「この縦四方は、あいてを組み伏せるだけじゃなく、こうやって、位置をずらしてキンタマを食いちぎることもできる」
股のあたりがくすぐったくって、おもわずふいてしまった。そしたら真剣にやれと怒られた。
その次は伏した状態になって、片腕を背中にとられた。身動きがとれない。
「これが『袖吊り』これだと相手のうなじが無防備になる。そこを切りつけたり、ゲヘッ、かみついたりする」
色々教わったけど、体中が痛いし、なんだかよだれくさい。
元亀四年 1月14日 とだ
今日も強くなる為に、武術の練習だ。そうおもって木の棒を振り回していると、
近くの町の悪ガキどもが集まってきて僕に勝負を挑んできた。10対1で、勝てるはずもなかったけど・・・
僕だって強くなるんだ。と思って勝負をした。だけど・・・・やっぱりぼこぼこにされて・・・
でも気づいたら、悪ガキどもが皆泣いていて、僕がぽつんと立っていた。
そして「お前は、俺が守ってやる・・・・」って誰もいないのに、僕に聞こえた。
辺りを見たけど、誰もいない・・・・。その日溝口さんに、たっぷり怒られたけど
意識がなかったとき、僕に何があったんだろう?
元亀四年 一月十五日 加藤虎之助
今日やっと遠州滞在の記録がまとまった。やはり旅はよかったな。
土地柄によって建物のつくりが大きく変わるのが、すごく面白かった。
大河の側の町は、石垣が高く、水路も多い。これは夏の洪水に備えるためだろう。
山間にある城は、屋根のかたむきがきつい。これは積もった雪を落としやすくするための工夫だろう。
建物のつくりはその土地の風土にあったつくりをすべし。
しかし、俺は城マニアではあるんだが、肝心の建築の勉強ができないんだよな。
町の大工にたずねても城ほどの大きな建造物はよくわからないらしい。うちの家中で建物が詳しいのは殿ぐらいだし。
だれかいい先生はいないだろうか。
元亀四年 一月十五日 くもり 佐吉
石田村の父から、久々に手紙が来た。
一筆参らせ候。息災なりや。ときには佐吉からも信賜り候わば、
これに勝る喜びなし。
錯乱せしために、鳥小屋にこめおきし汝が兄弥三、ようやく心気もおさまり
しかば、鳥小屋より出だし候。弥三曰く「外の手柄は佐吉に任せおかん。
我は家事にて功名を挙げん」と。
我甚だ安堵して、いずれにて功名を挙げんかと喜びおりし所、、
弥三 昼日中より部屋に篭もり、ひたすら妻女と励みおり候。時おり妻女のあえぎ声
外にもれ聞こえ、近所の百姓に「さすがは儒学を嗜む庄屋どののご子息、
子孫作りに励むは第一の孝行なり」と笑い者となる始末。
いかにせん、いかにせん。もはや勘当やむなきとも思いしかど、今一人の
男子である佐吉どのは既に他家の郎党と御なり候。我が悩みまことに尽きず、
髪も日々抜け落ち候。
佐悟
佐吉どの
親父は前からはげているじゃないか、というツッコミはさておいて、ああ我が兄。
去年実家に帰ったとき、障子からはだかの兄がこれまたはだかの義姉上を
いじめているのが見えたが、あれを一日中やってるのか!しょうもないなあ。
でも、近所の百姓の言う「子孫を作りに励むは第一の孝行」ってどういうこと
だろう。紀ノ介にこの手紙を見せて聞いてみたら、即座に顔を真っ赤にして、
「一家の恥は、友達であっても人に見せるもんじゃないぞ」
と言われた。よくわからないので聞き返したら、
「佐吉も今年で数え十四歳だろ」とあきれた声で返ってきた。
さっぱりわからない。最近紀ノ介の気分を悪くすることとかしたかなあ?
元亀四年 一月二十日 佐吉
城へきに炭で「オメコ」と落書きされる事件がおきた
いっしょにあけびのような絵が描かれていて
とのは「威信に関わるのですぐ消せ」といっていた
笑っていたけど口元と頬がひきつっていた
市松とお虎は笑い転げていたけど紀之介は顔が真っ赤だったので
「オメコってなに?」と聞いたらそんな言葉を口にするなと怒られた
紀之介は何を怒ってるんだろう?
元亀四年 一月十六日 加藤虎之助
浅井方の地侍、阿閉貞征のところへ行く途中だった。小一郎さまの腰ぎんちゃくとしていっしょにでかけたが、道のりが半分のところにある茶屋で休みをとった。
突然、となりの客がまんじゅうを食い逃げした。番頭があわてたので、俺にまかせろ、といそいで駆け出した。
上背があるほうだったが、かけっこ比べでは俺に適わなかったようだ。後ろから飛び掛って捕まえた。
店まで連れて行っても、そいつはまだ口の中にまんじゅうを含んでいやがった。どんだけ食ってたんだこいつ?
小一郎さまが名前をたずねた。
「藤堂……与吉。名は高虎じゃ」
あろうことか、これから行く城の家臣だったようだ。
「元家臣だ。今朝がた辞めてきた。どうせ辞めるなら、阿閉の顔を潰すようなことをやりたかった」
うちは関係ないことだ、と番頭もトサカにきていた。当然だな。
結局、小一郎さまが食い逃げの分を肩代わりした。
「借りができちまったな。いつか返しに行くよ。そういや、お前も虎っていうんだな。また縁がありそうだな』
そのまま美濃の方へ去っていった。
へんなやつだが、おかしな奴だった。
元亀四年 一月十七日 佐吉
病気の具合がよくない紀ノ介を京のお医者さままで送り届けることになった。
護衛に権兵衛さん、紀ノ介の介添えにぼくがついていった。
琵琶湖路には梅が咲いていた。いい香りだった。
紀ノ介は「この梅、またみんなで見れるよね」とつぶやいた。
先を歩く権兵衛さんがしきりにしゃくりあげていた。
勢多の唐橋を渡ろうとしたら、橋が落ちていた。
なんでもこの先の石山で挙兵している将軍さまの軍勢が橋を焼き討ちしたらしい。
傍らをみると漁師の舟があったので、交渉して乗せてもらうことにした。
川の中ほどまで来た。すると、漁師がやにわにあたまの笠を取り、
「ぐへへへへ、佐吉い、年貢のおさめどきだあ!」と叫んだ。
げええええ!あの坊主がだあああ!!
「佐吉、待ってたぞ、佐吉い」と坊主がぼくを抱きすくめようと飛び掛ってきた!
と、次の瞬間坊主は吹っ飛んで川に落ち、春先で増水している勢多川をすごい勢いで下っていった。
見ると、権兵衛さんが槍の石突で坊主を吹っ飛ばしたことがわかった。
権兵衛さんは笑って
「なあ、佐吉。前おまえが聞いてた「強さ」ってこういうことじゃだめか?
こうして仲間を守れる力があるってのはだめか?」
ううん。確かにかっこいい。でも、ぼくが鍛えてもここまでにはなれそうもないなあ。
隣を見ると紀ノ介が不安そうな顔をして、
「佐吉、ぼくがいなくなっても大丈夫かい?」
うん、大丈夫だよ!とぼくはとにかく胸を張って笑顔を見せた。
つぎをみる